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国経研だより掲載 神奈川大学シンポジウム開催報告
【第1部】社会デザインとDSX

神奈川大学国際経営研究所が編集・発行している「国経研だより」75号へ【第1部】2月26日(日)と【第2部】3月5日(日)の2日間にわたり神奈川大学キャンパスで開催されました、神奈川大学国際経営研究所主催(共催:一般社団法人 社会デザイン・ビジネスラボ、株式会社JSOL)の神奈川大学シンポジウムについて開催報告が掲載されましたのでご紹介いたします。

第2部の開催報告はこちらから

2022年度シンポジウム開催報告
「社会デザインとDSX」

2021年度のオンラインシンポジウム「横浜みなとみらい地区の活性化―ソーシャルデザインとデータサイエンスの視点から―」で得られた知見を基に、今年度も引き続き、中見先生を代表とする共同研究が進められてきた。株式会社JSOL、一般社団法人社会デザイン・ビジネスラボのご協賛を頂きながら、デジタルトランスフォーメーション(以降、DX)とサステナビリティ、ソーシャルトランスフォーメーション(以降、SX)をキーワードに掲げ、対面でのシンポジウムを開催した。みなとみらい地区の「らしさ」とは何か、それを探求するために必要な方法論とは何か、これらを議論することが主たる目的であった。以下、終日に及んだシンポジウムの概要を紹介する。

今年度の共同研究成果を簡単に振り返ると、みなとみらい地区では、様々な主体が地区内外で活動しながら、その地域としての魅力とコンテンツを用意してきたが、それらが果たして住民、市民それぞれの視点から見て十分な要素となっているのか、疑問を提示した。

そこで、今回の対面シンポジウムでは、地域における住民、市民のエンゲージメントを高める手段としてDXを捉え、それらを駆使することで社会をデザインする方向性を見出そうとした。午前中の基調講演では、昨年度に引き続き、立教大学名誉教授の中村陽一先生、並びにコンサルティング会社D4DRの代表取締役社長の藤元健太郎氏にそれぞれお話を頂いた。中村先生は社会デザイン研究を整理されながら、改めてデジタル分散主義の意義を見出され、デジタル産業主義と対比する形で主張を展開された。

中村 陽一氏

デジタル分散主義を上記のように定義した上で、藤元氏は省人化や無人化といった狭い意味でのDXではなく、顧客価値を創出する一つの手段として捉えるべきであると主張された。ポスト工業化社会を模索する中で、工業化社会で利活用された知識やスキルは既に陳腐化しており、クリエイターやコンテクスト、コンテンツにこそ価値が創出されるのであり、それらを意識した場づくり、コミュニティ作りが重要であるという。特に、日本社会においては、公的空間と私的空間との間の距離が広がり、セミパブリックな空間を意図的に作り出すことで都市の再設計が可能になると説いていた。

藤元 健太郎氏

午後の部では、社会課題を解決する一つの手段としてDXを捉え、様々なフィールドにおいて実践されている企業人、社会人の方々をお招きし、その実践例を基に最終的にはパネルディスカッションを行った。ビームスでは、ビームスジャパン・ブランドを2016年に立ち上げ、全国各地の地方自治体、伝統工芸従事者と連携しながら、日本の銘品をプロデュースする事業を展開してきた。ビームスジャパン・ディレクターの太田氏によれば、同社の強みはブランディング支援や販路開拓にあり、それらを基に高齢化や衰退が著しい伝統工芸や小規模事業者の逸品に光を当ててきたという。

太田 友梨氏

次に、一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事の関氏よりお取り組みをご紹介頂いた。シビックテック分野のフロントランナーとして日本で活躍されている同団体が、地域の利害調整、合意形成に取り組まれている事例を多数ご紹介頂いた。身近な住空間、コミュニティで起こり得る利害調整をDXによって解決しようとする試みと捉えられ、デジタル分散主義に加えて、Plurality(多次元性?)概念の重要性を主張されていた。

関 治之氏

次に登壇されたのは、日本総研創発戦略センターの木村氏である。木村氏は伝統的な経済モデルと対比する形でオルタナティブなモデルを探求されており、そのために必要なツールとしてWeb3.0を取り上げていた。個人のWell Beingを高めるためには、企業人としての側面と一人の人間としての双方の側面を入れ込んでいく必要があり、個人と社会を繋ぎ直す役割がWeb3.0には求められるという。トークンを基にした循環型モデルを志向することで、スマートコントラクトのような仕組みが形成されるのであり、ご講演ではウクライナ支援、旧山古志地区の錦鯉アートのNFT、サバンナのガバナンストークンの事例が紹介されていた。

木村 智行氏

最後に、ぴあの辻氏が登壇され、みなとみらい地区で同社が取り組む各種事業について共有頂いた。辻氏自身が横浜市出身ではない中で、自ら地域に入り込み、地域の魅力を再発見していくプロセスが紹介されていた。ぴあの経営理念は、「感動のライフライン」を提供することであり、みなとみらい地区で同社はミュージックハーバー構想、ミッドナイトハーバー構想を立上げ、中見先生のゼミ生を巻き込みながら各種イベントを実践されていた。

辻 悠奈氏

パネルディスカッションでは、登壇頂いた全ての皆様方に再度、ご登場いただき、ご自身の講演内容を踏まえて、他のパネリストへのコメント、ご指摘を頂くことが出来た。参加者のアンケート結果からも明らかなように、各界の第一人者からの知見は大変示唆に富むものばかりであり、パネリスト同士のディスカッションも活発に展開していった。特に、様々なフィールドで多様性を反映させる多次元の仕組みの構築が重要であり、ルールそのものの多次元化、DAO(自律分散型組織?)の意義について各パネリストからも指摘が相次いだ。

課題をどのように認識するのか、その問題意識の持ち方、問いの立て方がテクノロジーの進展する中では非常に重要であるという指摘もあった。20世紀を代表するような様々な概念、一物一価の法則、要素還元主義等を乗り越えていく可能性がDXには秘められており、様々な属性を持つ個人を基軸としたシステム構築を目指していくべきであると改めて確認することが出来た。本来のデジタライゼーション、DXは、個人を解放するような仕組みを持っており、本質的にアート、芸術にも通じるものであろう。

神奈川大学では、近隣の国公立大学である横浜国立大学、横浜市立大学、同じく私学の関東学院大学と共同で社会人向けの*¹履修証明プログラム*²YOXOアントレプレナー育成プログラム)を立上げ、本シンポジウムの聴講者となった方々をターゲットにリカレント教育を実践していく予定である。このプログラムは横浜未来機構(通称YOXO)を中心として構想が練られ、同機構が標榜する「みらい体験都市」、「挑戦者応援都市」、「領域越境都市」を実現していくための一つの大きな試みといえる。

この履修証明プログラムには本学から田中先生を筆頭に、中見先生、徐先生、そして非常勤講師の一条先生が参画される。都市、コミュニティを構成する主体の能動的な関与が重要であることは何度も確認されているが、まさに今回の履修証明プログラムを通じてみなとみらい地区に属する社会人の方々、行政、民間、NPO、第三セクターの方々が能動的に関与してく場、コミュニティが一つでも多く形成出来ればと願う。

(編集/神奈川大学国際経営研究所 行本 勢基氏)

■*¹履修証明プログラム

■*²YOXOアントレプレナー育成プログラム

https://www.kanagawa-u.ac.jp/cooperation/project/yoxo/

転載元

国経研だよりNo.75
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