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国経研だより掲載 神奈川大学シンポジウム開催報告
【第2部】地域活性化を促進するDSXリカレント教育とは

神奈川大学 国際経営研究所が編集・発行している「国経研だより」へ【第1部】2月26日(日)と【第2部】3月5日(日)の2日間にわたり神奈川大学キャンパスで開催されました、神奈川大学国際経営研究所主催(共催:一般社団法人 社会デザイン・ビジネスラボ、株式会社JSOL)の神奈川大学シンポジウムについて開催報告が掲載されましたのでご紹介いたします。

第1部の開催報告はこちらから

2022年度ワークショップ開催報告
「地域活性化を促進するDSXリカレント教育とは」

中見先生を代表とする共同研究では、2月26日のシンポジウムに引き続き、株式会社JSOL、一般社団法人社会デザイン・ビジネスラボのご協賛を頂きながら、「地域活性化を促進するDSXリカレント教育とは」と題して、横浜ハンマーヘッドへのフィールドワークを含む参加者限定のワークショップを開催した。

前週のシンポジウムで得られたDX、SX、両分野での最先端の知識を基に、みなとみらい地区の「らしさ」とは何か、それを探求するために必要な方法論とは何か、これらを具体的に考察していくことが主たる目的であった。当日は、立教大学名誉教授の中村先生よりご提案頂いた「ウォークショップ」を「フィールドワーク+ワークショップ」として独自に定義し、本学部の学生さんを交えながら有意義な議論が展開された。以下、終日に及んだ「ウォークショップ」の概要を紹介する。

中村先生からは、2050年を見越した文明論的な視座を持つことと、遠くて弱くて小さなものへのまなざしを持つこと、これらを両立させることの意義をご説明頂いた。「全体は部分の総和以上のものがある」というご説明は、20世紀を代表するパラダイムの一つである要素還元主義を乗り越え、それを脱却していくことの必要性を示唆している。前週のシンポジウムでは、「デジタル分散主義」が議論されていたが、日本社会における「公」と「私」を繋ぐセミパブリックな空間(D4DRの藤元氏)が創出されることで、遠くて弱くて小さなものが光り輝くことが出来ると思われる。つまり、筆者の解釈に基づけば、DXやSX、あるいはDSXは、多様性を反映させるための多次元な仕組みの一つであり、その仕組みを実効化することで一人一人のアクターが社会課題を自分ごととして捉えることが出来ると考えられる。

本日のウォークショップの成果を一言で、結論を先取りする形で表現するならば、午後のワークショップは、まさに大学という教育機関の中で、会社、組織を超えてセミパブリックな空間が創出されたと捉えることが可能であり、素晴らしい空間が広がっていた。家庭、学校・職場以外の場所という捉え方ではなく、いずれにも属さない中間的な空間を意図的に作り出すことが重要であり、今回の参加者はそうした空間の中に身を置いていたと考えられる。

次に登壇されたJSOLの三尾さんは、地域活性化に欠かせない要素として3Dを提示され、それぞれデジタル、デザイン、ダイバーシティの各視点から具体的な事例を交えながらご説明頂いた。現在の日本社会において重要なことは、データの箱モノを作ることではなく、それらを駆動させること、つまり、誰にどのような価値を提供するのかを考え抜くことであるという。JSOLや三尾さんが所属されている社会デザイン・ビジネスラボでは、そのためのプロトタイプを開発し、社会課題を解決するために実証実験を繰り返していた。

三尾 幸司氏

フィルゲート代表取締役の菊原さんからは次世代小売流通研究会からの様々な事例をご紹介頂いた。リアルとネットの融合が小売の現場において求められており、Z世代と地方創生、SDGsの中のフードロス、障がい者の就労支援問題等に取り組まれている事例をご説明頂いた。20世紀のような垂直分業、垂直統合が進んだ組織形態ではなく、データをいち早く共有していくことで非常にフラットな組織形態が実現し、水平分業が展開されていくのであり、長寿企業と呼ばれる日本企業の中にもそうした要素があるというご指摘であった。

菊原 政信氏

3名の講師陣によるお話の後、短い時間ではあったがパネルディスカッションを行い、要点を再確認した。地域活性化に必要なことは、協力、協働する仕組み作りであり、その中で参画する人々、特に社会人が問いを研ぎ澄ましながら課題に取り組むことである。中村先生によれば、昨今のリスキリングは誤解を生む可能性が高く、正確にはリカレント教育、そして学び続けることの意義であるという。知識、資格、そうしたものだけではなく、学び合える環境を創出していくことが、最終的にはその地域を魅力あるものにするという。

午後のフィールドワークでは、みなとみらい地区に2019年にオープンした新しい商業施設、ハンマーヘッドへ移動し、副館長の古川さんより概要をご紹介頂いた。埠頭近くのペデストリアンデッキに座り、ハンマーヘッドを仰ぎ見ながらのフィールドワークは、参加者、関係者共々大変貴重な経験となった。モアーズを運営する横浜岡田屋が地元企業とコンソーシアムを組みながら事業に参画したことが契機となり、当初は水族館も選択肢に入りながら現在の商業施設、形態に決定されたという。大黒ふ頭、大さん橋等の埠頭開発の一環であったため、ピア9という商号が決まりかけたが、最終的にハンマーヘッドへと落ち着いた。駅前の商業施設とは異なり、ハンマーヘッドでは人の流れがないため、新たなコンセプトを創出する必要があった。そこで「リアルの価値体験」を提供する施設として商業の捉え方を見直し、食とファクトリー(工場)、クラフトマンシップ等を重要視しながら、テナント各店にそのコンセプトに基づいた出店を依頼した。

山手、本牧、台町付近が具体的な商圏であり、平日と休日の繁閑の差を如何に小さくしていくのかが重要な課題であった。そこで、古川さん達は周辺の施設と共同でベイウォークイベントを開催しながら、ハンマーヘッドを含む周辺施設との回遊性を高める努力を続けている。在住外国人を含めてペット愛好家たちが散歩がてら立ち寄る姿が多くみられるようになり、一定の成果を収めている。ただし、ターミナル駅、施設からの大量の人員輸送が困難なロケーションであるため、今後は大規模集合施設との接続も課題となる。

最後のセッションでは、社会デザイン・ビジネスラボの三尾氏、花形氏のコーディネートによるワークショップが開催され、本学の学部生も入りながら4名一グループで編成されたグループワークが行われた。実際にみなとみらい地区の商業施設であるハンマーヘッドを訪問し、イメージを具体的に掴んだうえでのグループワークであったため、上記した通り、非常に活発な議論が展開された。短時間であったため、具体的なアイデア出しからのモデル開発までは取り組めなかったが、この地区に興味関心を持つ老若男女、全ての参加者が数多くの「気づき」を得られたことと思われる。

中見先生を代表とする共同研究では、都市形成において住民、市民のエンゲージメントをいかに高めていくことができるか、という問題関心の下、昨年度に引き続き、みなとみらい地区をフィールドとした調査を重ねてきた。地域としての魅力とコンテンツはアクターによって千差万別であり、一つの方向性に導くことは至難の業である。ただ、そうした魅力やコンテンツを引き出す仕組みが、果たして住民、市民それぞれの参画を促すものであるのかどうかは再考の余地があると思われる。現在のデジタルテクノロジー、DXをもってすれば、アナログに近い内容が容易にデジタルで再現することが出来ることが分かっている。それならば、地域の各主体が当事者意識をもって場に関わり、多次元な側面から多様性を担保すべきであろう。それが可能となれば、モノ(デザイン)に加えてコト(ストーリー)が一人一人の体験価値を高めることに繋がり、ひいては地域一人一人のWell Beingの向上に結びつくことになる。その最終的な帰結がサステナビリティ、ソーシャルトランスフォーメーション、SXの本質になると今回の「ウォークショップ」を通じて再確認することが出来た。
(編集/神奈川大学国際経営研究所 行本 勢基氏)

転載元

国経研だよりNo.75
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