【対談特集】サイバーな縁でまちの魅力を紡ぐ ~袖縁の取り組み~


社会デザイン・ビジネスラボ
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対談特集

心のバリアを軽やかに乗越えるアプリでまちの魅力を紡ぎ、心通うほっこり共生社会を実現しようという株式会社袖縁。 社会デザイン・ビジネスラボのプロジェクトにて株式会社JSOLと協力して、スマホアプリの【袖縁】を開発し、社会に役立てようと日々奮闘しています。 障害者とこれから障害者になる全ての人、つまりケガや病気、年を取って体に不自由を感じるようになる人にとって住みよい社会の実現を目指す株式会社袖縁の代表取締役 友枝敦氏と、 実証実験に参加した中野萌絵香氏、社会デザイン・ビジネスラボ 事務局長の三尾幸司が、その取り組みについて話し合いました。

目次

障害は一人ひとり異なる。【袖縁】で支援しやすい環境を

JSOL三尾

社会デザイン・ビジネスラボ 事務局長
三尾 幸司
株式会社JSOL
社会イノベーション推進センター長

中野萌絵香氏

中野 萌絵香氏

友枝敦氏

株式会社袖縁
代表取締役
友枝 敦氏

袖縁が作っているスマホアプリ【袖縁】について紹介してください。

友枝: 我々は、障害者や高齢者、ベビーカー使用者やインバウンド等、困りごとに遭遇しやすい方々を要配慮者と呼んでいます。【袖縁】は、困りごとに遭遇した要配慮者(困りビト)が合理的配慮義務を負う事業者(助けビト)にサポートを依頼できるスマホアプリです。現実問題として要配慮者とサポータ双方に心のバリアがあります。【袖縁】は、安全で適切なマッチングとあんちょこ/トリセツで、そこを軽やかに乗越えます。

三尾: 初めて【袖縁】の話を聞いたとき、「すごいコンセプトだ」と思いました。要配慮者とサポータの両方に配慮しつつマッチングできるのはとてもユニークです。

友枝: 【袖縁】では、困りビトがお店や駅等の事業者に対して「訪問予約」、「出迎え依頼」などができます。というのも、視覚障害者であっても、スマホの地図アプリの音声ナビ機能を使えば、目的地に向かうことはできます。ところが目的地付近に到着した時点で、「着きました」と案内をやめてしまうのです。

三尾: 健常者なら近くに着いた段階で、建物の入り口を見つけたりできますが、視覚障害者はそうはいきませんね。

友枝: そこで、目的のお店等に【袖縁】で「出迎え依頼」して事業者にサポートしてもらう、というわけです。段差あって入れない車椅子使用者にも有効です。 なお、困りビトの居場所はスマホの位置情報が通知されますが、誤差等で居場所が曖昧な場合は、困りビトにテレビ通話をかけて周囲を映してもらって把握します。

三尾: 要配慮者は買い物を始められるし、事業者としてもスムーズにサービスを提供できるということですね。

友枝: そのほかにも、初めて行った施設でトイレの場所がわからないという問題も起こります。そういった場合に役立つのが「トイレ案内機能」です。この機能で特徴的なのが、「通知する対象を指定できる」という点です。

三尾: 誰に通知するかを選べるわけですね。

友枝: セクシャリティにも係ることとして、誰でもいいという訳ではなかったりします。そんな方は、あらかじめ「トイレ案内」の通知先は女性限定、などと登録しておくことができます。

三尾: サポートする側にとって役立つ機能もありますよね。事業者スタッフの中には、障害者と接したことがないという人も多いんです。その際の最大のバリアは「どう対応すればいいのかわからない」ということ。【袖縁】はこの問題にも威力を発揮する。

友枝: 要配慮者は、どんな配慮点があり、どんな時にどう対応して欲しいかを記した「あんちょこ/トリセツ」を登録しておくことができます。依頼と一緒に「あんちょこ/トリセツ」も通知されるので、スタッフは安心してサポートに向かえるようになります。

三尾: 障害のタイプが同じでも、レベルや内容には違いがある。そして人には好みがある。それをスマホの活用で乗り越えられる【袖縁】は、あらゆる人にとって有用だと思います。

友枝: 自分の障害について説明することなく好みの対応をしてもらえたら、喜んでいただけると思うんです。そうすれば対応した人もうれしくる。そんな、お互いほっこりなるような社会を実現したいんです。

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「駅は怖い」という視覚障害者の悩みから生まれた【袖縁】

【袖縁】の開発に至るまでの経緯をお聞かせください。

友枝: きっかけは2014年のことでした。当時勤めていた会社の同僚から、「視覚障害者にとって、駅は怖いもの」という言葉を聞きました。確かに、目が見えない状態で駅のホームを歩くことは、落下の危険性もあって非常に危険です。 そこで当時の同僚たちと一緒に企画したスマホアプリが、【袖縁】のベースになりました。発端は「視覚障害者の落下事故を防ぐ」ことだったのですが、ちょうどそのころに、さまざまな駅でホームドアの導入が始まりました。

三尾: ホームドアというハードウェアで解決するアプローチですね。

友枝: はい。しかし実際に駅を視察してみると、転落事故以外にもさまざまな課題が見えてきました。その中で「これは大きな問題だな」と感じたのが、多くの人々が駅でスマホに夢中で、今ここと繋がっていないということ。スマホをいじりながら点字ブロックの上に立ったり、歩いたりする人もいます。 そのとき、そのスマホに向けて「近くに視覚障害者がいます」「手助けをお願いします」といったメッセージを送信すれば、気づいてくれさえすれば適切な行動をしてくれるのではないかとひらめいたのです。

三尾: 人と人との関係を作り出せるのは、ホームドアのようなハードバリアフリーではなく、【袖縁】などのソフトバリアフリーでなければ無理ですね。

友枝: 私たちはこのコンセプトをもとに、「周囲の人達に、障害者の存在や手助けの依頼を通知するアプリ」の開発を始めました。できあがった【袖縁】のプロトタイプは、視覚障害者の方々からも高い評価を得たこともあって、私としても手ごたえを感じていたんです。 しかし、ヒヤリングを進める中、世の中には障害者を狙った犯罪者がいるという問題に直面。プロジェクトは頓挫しました。

三尾: 周囲の人間すべてにメッセージを送ると、犯罪者にカモ発見装置として悪用されかねませんね。

友枝: そこで考えたのが、「合理的配慮の一環として、要配慮なお客さまをサポートする」ということ。店舗だったら店員さん、駅だったら駅員さんが手助けに来てくれる。そうして現在の【袖縁】へと至ります。

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実証実験で見えてきた【袖縁】の有用性

これまで【袖縁】の実証実験を数回にわたって行っています。実証実験ではどのようなことをしたのですか? なお、ここからは実証実験に参加していただいた中野萌絵香さんにも加わっていただきます。

友枝: これまで3回の実証実験を行いました。2017年には渋谷の金融機関で、2019年には東京都の「ソフトバリアフリー実証実験」として衣料品店で、そして2021年には、ユニクロ銀座店のイベントのひとつとして実施させていただきました。

中野: 私が参加したのは3回目のイベントになります。一般社団法人 日本視覚障がい者美容協会(JBB)から、ユニクロ銀座店で視覚障害者向けのサングラスの試着会があり、あわせて【袖縁】の体験会が催されると声を掛けられたので、参加しました。

どのような実証実験をしたのですか?

三尾: ユニクロ銀座店では、視覚障害者向けに事前予約制でお買い物のアテンドサービスを提供しています。サービスのさらなる向上のために、「電話以外で簡単に予約できる方法がないか」と検討されていたところでしたので、一緒に実証実験を行うことになりました。

中野: 私は全盲なのですが、店内に入ったところから、店員さんを呼んで迎えに来ていただき、目的地まで案内してもらうということを体験しました。ショッピング中に店内を一緒に回ってくれたのはうれしかったですね。 私は全盲なので、一人でお店をうろうろすることはあまりないのですけれど、買い物に行くのはすごい好きです。なので、出掛けるときには親、あるいはガイドヘルパーを雇って待ち合わせてみたいな感じが多いんです。このアプリを使って気軽にお店に入って、お店の方とコミュニケーションできるというのがすごくうれしいですね。

友枝: 【袖縁】の使い勝手はどうでしたか?

中野: 初めて触ったのですが、とても使いやすかったです。外出するときに、いざとなったらお店で助けを呼べるというのは安心感にもつながります。このアプリを使ってお店の方と会う機会が増えるのもうれしいことですし、楽しみです。

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これまでの実証実験の手ごたえはいかがでしたか?

友枝: 金融機関、衣料品店で実施させていただき、どこに行っても使えそうだということが確認できました。また、視覚障害者、聴覚障害者、車いす使用者、ベビーカー使用者などいろいろな方に使っていただき、どんな方にも役立つこと、また事業者としてはどんな方がいらっしゃっても対応できるという手ごたえを感じています。 驚いたのは聴覚障害者の方が「夢のようなアプリ、これでまた出かけられる」と言ってくれたことでした。白杖や肢車いすを見れば、障害のタイプがわかりますが、聴覚障害者は見た目では分かりません。聴覚障害者は、障害者であること、筆談等の依頼を伝えなければならない。また、障害者だと分かって戸惑ってしまう店員さんも決して少なく無い。それが辛いのだと。 【袖縁】で手助け依頼すると、何も言わなくても店員さんが筆談ボードを片手にやってきてくれる。説明することなく、ウエルカムな雰囲気で対応してくれようになる。

三尾: 言わなくても伝わるというのは【袖縁】の大きなメリットですね。

友枝: あんちょこ/トリセツのなせる技です。「視覚障害者」「聴覚障害者」とひとくくりにはできません。例えば視覚障害者には、まったく見えない方もいれば、視界の中心だけが見えない等さまざまな方もいます。そこで「話しかけるときは、正面ではなく、斜めから」などと記載しておけば、コミュニケーションも取りやすくなります。 他にも、「誰でもトイレは避け、個室内の案内をして欲しい」と望まれる視覚障害者もいます。手で触れて確認する方は広いトイレは逆に不親切ですし、最近のトイレは流し方もさまざまで困ってしまう。そういうときにも自分の好みを書いたあんちょこ/トリセツが役立ちます。

JSOLと一体になって開発や実証実験などを推進

そもそも友枝さんと社会デザイン・ビジネスラボとの出会いはどのような形でしたか?

友枝: このアプリを社会に浸透させるにはと模索していたら、「社会デザイン」という考え方を知り、立教大学が開いていた社会デザイン集中講座に参加しました。その縁で「社会デザイン・ビジネスラボを立ち上げるから設立説明会に来ないか」と、会長の中村先生に誘われたのが始まりです。

三尾: 友枝さんと私が初めて会ったのはその設立説明会ですね。2019年の暮れでした。話を聞いて、「おもしろいサービス」という印象を受けました。また、社会デザイン・ビジネスラボには、社会課題に取り組むビジネスを作っていくという目的があったので、実証実験なり、ICT面での支援を行うことで、一緒に事業として成り立たせたいなと思いました。

友枝: 【袖縁】には安全性が欠かせません。そのため私たちは、技術力はもちろん、安全なアプリを作れるノウハウを持ちつつ、私たちの理念を共有してくれる企業との出会いを求めていました。そういう期待を込めて参加したら、まさに私たちの思いにピッタリな三尾さんがいて、「一緒にやろう」と言ってくれたわけです。

三尾: すでに作られていたコンセプトもプロトタイプをベースに育てていこうと、すぐに意気投合してしまいました。

友枝: 私は力強い仲間ができて、うれしいというか、安心しましたね。福祉はタダ、見て見ぬ振り、という意識も根強く残っている中、社会デザイン・ビジネスラボとJSOLとは、課題認識とCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)という方向感で一致、共感してくれました。アプリ開発はJSOLが担当していますが、実証実験など事業全体を一緒に進めている感じですね。

障害者と健常者が分かれていては、真の共生社会は訪れない

この取り組みを通して大切にしていることは何ですか?

友枝: 日本人の気質として、困っていそうな要配慮者が目の前にいても声を掛けるのに二の足を踏んでしまいがち。また要配慮者も、ともすると遠慮がち。その結果、現代の日本では、健常者と要配慮者がお互いに違う層の中で生きているように感じます。 【袖縁】が、そんなバリアを軽やかに乗り越える一助になればと思っています。そして、触れ合う機会が増えることにより、遠慮や苦手意識などの凝り固まった心のバリアも解きほぐされていけば、と願っています。

中野: 視覚障害者から見ても、すごくいいアプリだと思います。今までにも障害者向けのサービスはいろいろとあったのですけれど、袖縁は人と人をつないでくれます。そこが一番、いいなと思いました。

人とつながることのありがたみにはどういうことがありますか?

中野: 私は以前、「海外は障害者に優しい」と聞き、アメリカに留学したことがあります。確かに現地の人々は、みんな優しいし、フレンドリーでした。点字ブロックなどはあまりないのですが、それでも障害を抱えた人が暮らしていけるのは、周りの人が自然にサポートしてくれているからだと思います。 日本の都心だと点字ブロックが張り巡らされていて、視覚障害があっても一人で歩けることが普通なんです。それはすごくありがたいことなのですが、同時に、健常者と障害者の間に壁が生まれている原因になっているのかもしれません。

三尾: 社会に出ると、健常者も障害者もお互いに助け合わなければいけないということを実感するのですが、一度「障害者は手助けせずに見守るべき」という考えを植え付けられてしまった人だと、いざというときに体が動かないんですよね。

友枝: 私自身、以前は障害者と係ることのない人間でした。昔の私だったら、中野さんを「中野さん」ではなく「視覚障害者」と捉えてしまっていたと思います。障害を持った方々と触れ合う場数を踏んだ今は、普通に「中野さん」と認識できるようになりました。 合理的配慮という文脈の中、行動のバリアは【袖縁】が下げますので、多くの人たちが要配慮な方々とのほっこり場数を踏んで、私のような小さくも重要な悟りを得て欲しいと願っています。

三尾: やはり社会課題に触れていけば触れるほど、「障害者」という人はいないこと、障害を持つ個人がいるのだということが理解できてきますね。人それぞれに異なる事情をくみ取って、お互いに助け合える社会づくりを支えるアプリとして【袖縁】が広がればいいと願っています。

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これまでの実証実験

2017年、視覚障害者を対象に金融機関でシミュレーション
渋谷の金融機関に協力を仰ぎ、【袖縁】のプロトタイプを活用した顧客対応の実証実験を行いました。このトライアルは、約10人の視覚障害者が参加し、「袖縁を使いながら金融機関を利用する」というシナリオに基づいて進められました。
2019年、衣料品店で視覚、聴覚の障害、車いすやベビーカーの利用者で検証
東京都が実施した「ソフトバリアフリー実証実験」において、新宿の衣料品店と協力し、【袖縁】を活用した買い物体験と顧客対応の実証実験を行いました。このトライアルでは、視覚障害者、聴覚障害者、車いすやベビーカーの利用者、LGBTQの約30名の参加者が、【袖縁】を用いたショッピングを楽しみました。
2021年、ユニクロ銀座店での視覚障害者のショッピング体験の向上
ユニクロ銀座店と日本視覚障がい者美容協会とによる「視覚障害者向けサングラス試着会」のサイドメニューとして、試着会参加者への【袖縁】体験会を行なわせていただきました。試着会では15名ほどの視覚障害者が参加し、スタッフとコミュニケーションを取りながらのサングラスの試着とショッピングを行い、その後に【袖縁】を使ってスタッフに手助けを依頼するなどの体験を行いました。 【袖縁】体験および感想は、日本視覚障がい者美容協会「音で読めるファッション雑誌」に採り上げていただいています。 https://voicy.jp/channel/1071/136128

▼参加者の声
《要配慮者》
・夢のようなアプリ。これでまた外出できる
・絶対に欲しい
・リリースを心待ちにしている

《事業者スタッフ》
・お客さまに喜んでいただける
・人による好みの違いに驚いた
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(2021年06月現在)