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人間社会のありとあらゆる課題に取り組む「社会デザイン」
その視点をベースに新しいビジネスを創出する


2019年12月12日、立教大学の社会デザイン研究所とJSOLの共創により「社会デザイン・ビジネスラボ」を設立する。

これは、現代社会が抱えるさまざまな課題に対して解決策を探ると同時に、社会に役立つ新しいビジネス創出を目指している。

この社会デザイン・ビジネスラボの設立にかかわり、人、組織、地域が共存する社会のデザインについて長年研究してきた立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授 社会デザイン研究所所長の中村陽一氏と、JSOLで勤務する傍らNPOやPTAなどでパラレルキャリアを築いてきたJSOL社会イノベーション推進センター長の三尾幸司が、設立の背景とその将来展望について話し合った。

20世紀型の方法論が役立たない21世紀型の社会課題の解決に効く「社会デザイン」

新たに始める社会デザイン・ビジネスラボの概要と目的についてお聞かせください。

三尾:社会デザイン・ビジネスラボは、さまざまな社会課題を取り上げて、その解決に向けて取り組み、かつ新規ビジネスの創出をめざす研究会です。JSOLが事務局となり、立教大学の社会デザイン研究所とともに2019年12月12日に設立します。 研究会では、ある社会課題をテーマに定めると、まずはその問題に取り組んでいる方から講義をしてもらいます。その後、参加メンバーがアイデアやリソースなどの提案を出し合い、そこからビジネスモデルを作っていくというプロセスを進めます。

社会デザインとはどのようなものなのでしょうか。

中村: そもそも社会とは何でしょうか。「社会」はソサエティの訳語として明治時代に作られた造語です。これに対して福沢諭吉は「人間交際」という訳を主張しましたが、私もそのほうが適していると思います。 社会というと何か実態があるように感じられますが、本当は実体などなく、異なる価値観を持った多様な人間が、限られた空間の中で共生していくために必要な知恵や仕掛けの全体のことなのです。 そういう意味での社会を組み替えたり新しいものにしていく取り組みを社会デザインと呼ぼうと考えています。

三尾: ですから、人間が生きるうえで生じる、ありとあらゆる課題が社会デザインの対象となるわけです。

中村: 社会デザインはいい意味で融通無碍なものです。社会デザインという言葉が流行り始めたのは、この7、8年。最近「社会デザインの定義とはなにか」という質問をたびたび受けますが、そういうとき私は敢えて「社会デザインの定義はしません」と答えています。 というのも、定義をした途端、既成の枠組みに捉えられてしまうから、それを避けるためにあえて「定義はしない」と挑戦的に答えるようにしているんです。融通無碍に社会デザインに取り組んでいきたいと思っています。

三尾: 一般的にデザインというと、多くの人はインテリアやファッションなどの見た目の良さ、美しさをイメージすると思いますが、社会デザインのデザインはそういう意味ではありません。

中村: 何かをデザインする根本的な目的は、人間の幸せを実現すること。社会デザインの場合、人と人との関係、人と組織の関係、人と地域の関係、そういうものをより良い方向に調整していく行為がデザインとなります。 社会の中のこことここの関係がおかしくなっているから、変えていこう、見直そうという行為が社会デザインの取り組みとなります。

社会課題の解決については従来からさまざまな取り組みがありました。社会デザインは従来の取り組みと何が違うのですか?

中村: 確かに多くの社会課題、たとえば、環境問題、民族紛争やテロなどは最近になって表面化したわけではなく、少なくとも前の世紀からありました。そのような前世紀からの宿題に加えて、21世紀には新しい課題が出てきました。 例えば貧困。もちろんこの問題は飢餓に象徴される形で以前から存在していましたが、様相が変わりつつあります。例えば、先進国の繁栄している街に路上生活者がいて、さまざまな要因によって社会から排除されています。 災害でも同様で、台風が来るたびに「これまでに経験のない規模」「観測史上初」といった言葉を耳にします。それらは従来の対策では限界があるということです。 このような新しい課題を解決するときに、20世紀型の方法論は役立ちません。問題の質や表れ方が変わってきているからです。その解決には、社会の枠組みや人びとの参画の仕方を変えていく必要があります。 そこで求められてきたのが社会デザインなのです。

三尾: 社会をデザインすることが重要といっても、個人の力でできることは限られます。 しかし、さまざまな取り組みを企業がビジネスとして支えるという新しい仕組みなら提供できるのではと思いついたことが、この社会デザイン・ビジネスラボへとつながりました。

教育とビジネスのつながりが「社会デザイン・ビジネスラボ」を生み出した

社会デザイン・ビジネスラボ設立に至るまでの経緯をお聞かせください。

三尾: 以前から私はJSOLで働く傍ら、2011年ごろからNPOの「コヂカラニッポン」やPTAの活動に関わってきました。 NPOで始めたのが、子どもに向けてマーケティングを教えるキャリア教育プログラム「コヂカラMBA」などの活動です。

中村: パラレルキャリアというように、副業(複業・福業)をする人が増えてきていますね。 自らの専門性を社会貢献活動などに生かすプロボノのようなケースもあります。

三尾: そのような活動をしていると、会社の業務では学べないことを教えてもらったり、NPOやPTAの活動を通して違った人脈が広がったりして、 自然に社会デザインのような意識が自分の中に生まれてきたのです。
そして会社での仕事でもオープンイノベーションによるソーシャルビジネス創出などにかかわるようになり、 個人での活動と会社での仕事の垣根がなくなってきました。

中村: ワーク・ライフ・バランスという言葉がありますが、三尾さんはライフとワーク、そしてソーシャルが融合、からみあっていますね。 一人の人間がいろいろな仕事を実践することで、いろいろなところにつながって、良い方向に向かっているように見えます。

中村教授の活動についてもお聞かせください。

中村: 私も、ワークとライフが複合したキャリアを積んできました。今は立教大学の教員であり、社会デザイン研究所の所長ですが、 出版社の編集、雑誌デスク、社会的起業(シンクタンク)などさまざまな経験をしています。 特に編集は、経験も知識も豊富な方とお付き合いしましたので、大変な刺激を受けました。 また、取材で各地を回るうちに深いつながりを持ったのが、地域の市民活動です。
その後、教員として1996年に大学に戻り、2002年立教大学に「21世紀社会デザイン研究科」という社会人大学院が設立されて移りました。 しかしあくまでも教育の場ですので、事業活動には向いていません。そこで2008年に立ち上げたのが研究科付属の社会デザイン研究所です。

三尾: 2002年、2008年というと、まだまだ「社会デザインって何?」という時代でしたね。

中村: はい。しかし少子化で若い世代が減っていく中、「ユニバーシティソーシャルレスポンシビリティ(USR=大学の社会的責任)に取り組みたい」 「社会人との連携を深めていくことが大学の存在意義にもなる」という考えから、社会デザイン研究所を設立したのです。
この研究所では3つの目標を掲げています。第1の目標は課題を解決するものとしての社会デザインを追究すること。 第2の目標はそのために実践的なプロジェクト研究を推進すること。第3の目標はそういう社会デザインの推進人材としてソーシャルデザイナーを輩出すること。
その一環として毎年開催しているのがソーシャルデザイン集中講座です。

三尾: その講座を受講したのが、中村教授と私の出会いでした。この体験から、仕事でも社会との接点を作っていきたいという気持ちが強く芽生え、 2019年7月に社会デザイン・ビジネスラボの原型となる、1回限りのイベントを開催する企画を教授に相談したのでした。

中村: 私はノリとカンで動く人間なものですから、「いいね、やりましょう」と即答しました。ノリとカンとはいえ、嘘偽りなく面白そうと思ったのは事実です。

中村教授の目にJSOLはどのように映りましたか?

中村: ビジネスの基本は、これまでの成功体験から導かれた方法論です。しかし、21世紀型の社会課題を従来とは異なる方法論で解決しようという社会デザインは、 通常のビジネスの方法論と異なります。そのため多くの会社は、社会デザインを一緒にやりましょうといっても、受け入れが難しいことがあります。 その点、JSOLはすぐに興味を示してくれました。

三尾: 私も中村教授に企画を持っていくときに、上司を連れていき社会デザインの重要性とおもしろさに触れてもらいました。 やっぱり中村教授の話を直接聞くほうが伝わりますから。

中村: それにJSOLがICT企業という点も社会デザインとの親和性が高いといえます。ICTの世界は次から次へと新しいものが出てくるので、 既存の枠組みにこだわってばかりいたら前に進めません。よく分からない技術でもビジネスに活用できるのではないかと模索したりすることが必要です。 そういう点からICT企業であるJSOLへの期待と、そして三尾さんという非常にポジティブなキャラクターにも魅力を感じました。

課題の提示から始まるディスカッションが、新たなビジネスモデルを創出する

当初は単発のイベントの企画だったのが、継続する社会デザイン・ビジネスラボへと変わった理由はなんですか?

三尾: 社会デザインは1回限りではなく継続が大事であると考え直し、単発ではなく、 長く続けられる大きな枠組みにしていきたいとの思いから、定期的に開催する研究会へと方向を変えました。

中村: それに、人間の生活にかかわるすべての問題が社会デザインですから、対象範囲は広いのです。一回だけでは終わりません。

社会デザイン・ビジネスラボではどのような活動を行っていくのですか?

三尾: 社会デザイン・ビジネスラボではさまざまな社会課題を取り上げます。そして1テーマに対して、2回のセッションを行います。
まず、そのテーマに実際に取り組んでいる方から、社会課題の背景やこれまでの取り組みなどを講演してもらいます。 そして、参加しているメンバーから「こういうアイデアがある」「うちの会社にこういうリソースがあるから、活用できるのでは?」という提案の場を設けます。 ここまでが1回目のセッション。2回目は翌月に開催し、ビジネスモデルを作るためのディスカッションを行います。

中村: ひとつの課題に取り組むと新しい課題が見えてきます。それをふまえ、1テーマ2セッションで新しいビジネスモデルを作っていきたいと思います。

三尾: 私たちが大切にしているのは、ここで生み出したビジネスプランを、採算の取れるビジネスにつなげることです。 ビジネスプランを考える際は「JSOLオープンいのべ場」というフレームワークを活用します。 これはイノベーションに関する方法論を組み合わせてJSOLでアレンジしたもので、アイデアを出しやすく、かつソーシャルビジネスが実践しやすいことを重視しています。

有望なビジネスプランは、JSOLがICT面、立教大学が人脈面から支援

作ったビジネスプランをどのようにして実際のビジネスにつなげるのですか?

三尾: 社会デザイン・ビジネスラボで生まれたビジネスモデルがおもしろいものであれば、 そのビジネスに継続して取り組みたいメンバーを募り、新しいビジネスやサービスを創出するためのチームを作ります。
そしてJSOLはICTの面からその活動を支援します。そして中村教授の豊富な人脈を生かして、人間のネットワークを提供していただくことも可能です。

中村: 異なる分野でいろいろなおもしろい活動を実践している専門家、実践家が世の中にはたくさんいます。 そういう異なる分野の人が出会うことで新しい化学反応が起こるのではないでしょうか。社会デザイン・ビジネスラボは、 ある種のインキュベーターの役割をして、卵が孵化するように新しいものを生み出す場になればと期待しています。

社会デザインに取り組むための貴重な検証の場、そして新たなビジネスを生む出会いの場

社会デザイン・ビジネスラボに参加する企業、人にどのようなメリットがあるのでしょうか?

三尾: 企業が社会デザインに関しての検証する場を持つことはあまりないので、立教大学の社会デザイン研究所の協力を得られる社会デザイン・ビジネスラボはさまざまな利点があると思います。
自社が持つ技術やノウハウ、リソース、特許や知財がどこに活用できるか分からないケースもあるでしょう。 各企業がそれぞれのリソースやアセットを組み合わせて、立教大学のノウハウやフィールドと組むことで、新しい何かを生み出せると思います。

中村: 日本の企業は良いものを持っています。しかし社会が変容する中で、新しく出てきた社会課題にフィットするようなビジネスを構築できれば、さらに新しい何かに化ける可能性は高いはずです。

三尾: また近年、SDGs(持続可能な開発目標)への注目が高まっていますが、企業活動においても社会課題がフォーカスされつつあります。 また、企業の中にも社会貢献に対する意欲を持つ方も少なくありません。実際、会社の仕事をしながら、社会貢献の活動をしている人も増えています。 企業、そこで働く人が社会デザインに取り組む機運は高まっているといえます。社会に役立つ仕事をしていると認知されれば、会社の評価も高まるはずです。

活動の場として、六本木にあるデザインスタジオAQUAIRを選んだ理由はなんですか?

三尾: AQUAIRは多目的ルーム、応接室、プロジェクトルーム、実証実験のためのスペースなどさまざまな部屋が用意されているデジタルビジネスのためのスタジオです。 立地がいいだけでなく、いろいろなアイデアを発想する場としてデザインされた空間で、社会デザイン・ビジネスラボの活動拠点として適しています。
空間の良さだけでなく、運営しているNTTデータの方が私たちに共感してくれたこと、デザインに詳しいスタッフがいることも、AQUAIRを選んだ大きな理由です。

中村: 空間デザインと社会デザインが相互乗り入れすることは非常に大事です。リラックスできる空間で意見交換したりして何かが生まれる。 この空間ならそういうことが可能なのではないかという印象を受けました。

最後に読者に向けて一言お願いします

三尾: ソーシャルな関心を持つ仲間に集まってほしいと思っています。一緒に良い未来を作っていきたいので、そのきっかけづくりにぜひ協力してください。 この活動に参加し、継続することで仲間が増えます。そして仲間が増えると活動が加速度的に進んでいくので、将来が楽しみです。

中村: おもしろい人との新しい出会いを楽しみにしています。各自がアイデアを出し合う場に参加することはお金では買えない価値があるので、 社会デザイン・ビジネスラボがそういう価値を生む場になるといいですね。
今の日本にはたくさんの問題が山積しています。それぞれの企業が持っているいいもの、素晴らしい専門性や優れた人材などをうまく組み合わせれば、 日本を救うビジネスをみんなで作っていくことも可能ではないかと、期待を込めて妄想しています。

(2020年01月現在)