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【活動報告】ワークショップ/これからの自然環境をデザインする
~生物多様性/外来種データ活用アイデアソン~

1.挨拶・講演

最初に当日プレゼンターから挨拶を頂きました。
続いて3名の有識者よりワークショップの素地となる講演がありました。

講演1 環境省のデータマネージメント

2021年3月に環境省データマネジメントポリシーが発表されました。データマネジメントポリシーを作ったのは中央省庁では環境省が初めてです。2021年度内には環境データショーケース(環境データのポータル)を公開予定となっています。これによって環境省がどんなデータを持っているか、データによっては内容も含めて一般に公開されるようになりました。

データを公開する仕組みが整い始めている現在、環境省では民間、あるいは研究者からの「どんなデータが欲しいか」というニーズがあるのかを知りたい状況です。
さまざまな分野のプロが集まった今回のワークショップを通して、さまざまな意見を伺うことができると楽しみしています。

講演2 外来種対策の現状と課題

今は外来種を取り上げるバラエティ番組もあるため、何となくのイメージは多くの人にあるかと思います。ただ、環境省で定義する外来種とは元々の分布地域外から人の手で持ち込まれた生物のことです。海外から来たとは限らず、国内の移動でも人間の活動によって元々分布していなかった地域に持ち込まれれば外来種ですし、いつ持ち込まれたのかも定義には関係がありません。厳密に言えば稲も渡来人によって日本列島に持ち込まれた外来種です。

稲の例から判る通り、全ての外来種が根絶すべき生き物というわけではありません。環境省ではその土地の生態系や農林水産業、人の生命や安全に被害を及ぼす可能性が高い【侵略的外来種】に対して対策を講じています。
外来種の定着段階と防除の困難度は比例します。まずは地域に外来種を入れないことが肝心です。環境省では外来種を入れない・捨てない・拡げないの三原則を周知しています。

とはいえ、ヒアリのように意図せず入ってきてしまうことはあります。自然環境に定着して個体が増えてから駆除するのは現実的に難しいので、入る前後の水際対策が重要です。ヒアリ対策で言うと、全国の空港や港湾で定点観測を行う、輸入事業者に対してコンテナ等の点検に協力依頼を行うなどがあります。

すでに国内に入って定着してしまった外来種の対策も行っています。対策の成功例として、奄美大島に持ち込まれたマングース対策を紹介します。1979年にハブ対策として持ち込まれたマングースは奄美大島の在来生物を食べてしまう侵略的外来種となりました。持ち込まれた当初は数十頭でしたが、2001年には島全域で約1万頭にも増えていました。環境省で捕獲を進め、2021年現在では根絶に近づいています。しかしここまで駆除を進めるには莫大なコストがかかっているのも事実です。

課題に直面している例もあります。アライグマは都道府県や農家で捕獲を進めていますが、生息域が広がっています。
水際対策の課題としては、輸入コンテナを全量調査するのはあまりに数量が多く現実的ではないこと、専門家による種の同定には時間がかかること、輸入事業者との連携などがあります。
定着している外来種対策では国、自治体、民間団体いずれも体制・資金が充分に整っていない前提の中で、分布拡大の先端地域の情報をいかに集めるかというのが課題となっています。既存活動団体だけではなく、民間企業や個人からも情報を得るための仕組みを構築したい反面、間口を広くすると情報の精度が落ちるという一面もあります。
環境省としては把握したデータを自治体等に提供し、外来種対策を侵入前から取ってもらえるようにしたいと考えています。

講演3 生物多様性情報システムにおけるデータのオープン化と利活用について

生物多様性センターとは、自然環境や生物多様性に関する「調査」「情報提供」「資料収集」「国際協力」を4つの柱に、日本の生物多様性の保全に寄与するため、各種施策の下支えとなる科学的な情報基盤の整備と強化に向けて、総合的な取組を推進する中核的拠点です。
生物多様性センターではJ-IBIS(生物多様性情報システム)を構築し、提供情報は原則オープンデータとして活用できます。
J-IBISには連動したサブシステムがいくつかあります。それぞれのサブシステムの特性に応じて、植生や動物の分布情報といった面的データや定点モニタリング結果といった定量的・質的データ、収蔵標本データなど、個人情報等保護が必要な情報や、希少種の詳細な最新の位置情報といった、公にすることで環境保全に支障を及ぼす恐れがあるものを除き公開しています。データは環境省のサイトからブラウザ上で確認・ダウンロードが可能です。
サブシステムのなかでも特徴があるのが【いきものログ】です。いきものログは環境省からのデータ提供だけではなく、他の地方自治体や専門団体などから情報提供を受ける双方向性のあるシステムです。この双方向性を活かした取り組みを積極的に進めたいと考えています。一例として、長野県環境保全研究所がいきものログを用いて「信州の外来生物を見つけよう!」という取り組みを行っています。一般市民からも情報を得られたことから、外来生物の実態把握が進展しました。
環境省だけで推進するのではなく、外部の団体や組織とも連携・協力をしながら、より充実した質の高い情報・データを収集し、提供していくことを目指しています。

2.ワークショップ~チーム発表

講演の後、チームごとにワークショップを開始しました。
ワークショップの進め方を簡単に説明したのち、自己紹介を取り入れたチームビルディングを行いました。

自己紹介は名前や所属団体を言うだけではなく、趣味や自分の強みを付箋に書き出し並べていくというアイスブレイク方式を取り入れました。
これにより、多くのチームでよりアクティブなワークショップを行うための空気感が醸成されました。

今回のワークショップのテーマは【生物多様性・外来種】。
最終的な目的はチームで生物多様性や外来種に関わるビジネスモデルを考案することに設定しました。

自己紹介後、ゴールであるビジネスモデル創出に繋げていくためのワークに移り、最初はチームごとに生物多様性・外来種に関するキーワード抽出を行いました。
キーワードを付箋に書き、視覚化することで課題や要素がより見えやすくなり、データを深く掘り下げ細分化していくことができます。
今回はデスク上でのやりとりにとどまらず、敢えて机から立って壁面の大判用紙へ付箋を貼る形式を取りました。
より近い距離で他の参加者とやりとりする機会が増え、いっそう和気あいあいとした雰囲気を作る一助となりました。

チームごとにキーワード抽出を行った後は、休憩を挟み個人ワークにてアイデア創出の時間を取りました。
今回、脳内で考えるだけではなく、シートにアイデアを書き出すことでより多くのアイデアを創出する事が可能なアイデアマトリックスのワークシートも活用しました。

その後、個人ごとに考えたアイデアをチームに持ち寄って1つのビジネスモデルを作り上げました。
生物多様性に関するプロフェッショナルだけではなく、さまざまな分野からの参加者により、現実の課題に即したこれまでにないタイプのビジネスモデルが多く発表されましたのでご紹介いたします。

チーム発表例①

プロジェクト名:そうだ!狩りに行こう

既存の問題点・課題:
野生動物や外来種による獣害が増えている反面、地方では駆除ができる人間が少なくなっている。
内容:
ワーケーションと地域活性化をキーワードに設定。都会に住む人を対象に、副業として週末マタギを進めるサービスを作る。
マネタイズプラン:
駆除した動物を地域のレストランや加工業者に卸し、現金化する。
さらにレストランや加工業者を誘致・育成等するための資金として、金融機関から地域活性化応援定期預金等を開発してもらう。害獣の被害件数が減ると金利が上がる定期預金などを開発することで、地域のお金が害獣駆除や駆除後の動物を使った地域活性化につながる仕組みをつくる。

チーム発表例②

プロジェクト名:外来種GO

既存の問題点・課題:
・外来種がどこに、どの程度の数が広がっているのかという現状をリアルタイムに把握することが難しい。
・外来種の状況を掴めないために対策の優先度をつけづらくなっている。
内容:
・一般の人を対象に、外来種について楽しみながら啓蒙するスマホアプリを開発。
スマホアプリで一般の人から外来種の情報を収集する。集めた情報をポイント化し、レアアイテム・カード等がもらえるなど、ゲーム感覚を強くしたアプリにする。
環境省等で集まったデータを分析し、外来種対策優先度設定に役立てる。
地域のJA・農家と外来種情報を共有することで、獣害対策をあらかじめ取ることも可能になる。
マネタイズプラン:
・得られた情報を害獣駆除業者やハンターに販売。

その他チームの各プロジェクト名

・けものひっつき虫センサーによるデータベース構築
・テーマパークでトラウマになるSDGs
・レア生物を捜せ!人流と学びを生み出すソリューション
・さとやまデジタルツインツアー
・バーチャル×リアル生き物ツアー

多くのチームで、生物多様性と外来種問題を解決させながら、同時に都会から地方への人的移動を促し地域活性化を図ることができるビジネスモデルを考案していました。
アプリを開発しゲーム感覚で現地に足を運んでもらう、都会在住の人からハンターになってもらい週末副業のひとつとして選択肢を作る、などのユニークなアイデアもありました。

また、マネタイズプランまで細かく設定したチームもあります。
イベント参加費や自治体からの助成だけで必要経費を賄うのではなく、地元金融機関から害獣被害の程度によって金利が上がる金融商品を設定してもらう、アプリやイベントによって得られた外来種・生物情報をデータを利用したい相手に販売する、などのアイデアも出ました。

いずれのチームのビジネスモデルも、個人あるいは既存の組織内ではなかなか生み出されない特色あるアイデアでした。
一連のワークショップを通じ、考えを醸成させたからこそ出来たビジネスモデルが出揃ったと感じられました。

3.まとめ

リアルで大人数が顔を合わせて行うワークショップは久しぶりだったということもあり、参加者の多くも初めはどこかぎこちない様子でした。
しかし、アイスブレイクを取り入れたチームビルディングを皮切りに、要素抽出・ディスカッションと進むにつれて自然とチームメンバーが打ち解け、これまでにないビジネスモデルを考案するまでに至りました。
SDGsからもわかるように、自然環境問題を身近な問題として捉えることが今後重要になっていきます。
今後も自然環境を中心に据えた取り組みを社会デザイン・ビジネスラボでは引き続き行う予定です。

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