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【開催報告】ワークショップ/健康寿命延伸社会実現のためには

2021年12月20日、大阪にて【『健康寿命延伸社会実現』のためには】と題したワークショップを開催しました。
当日は一部オンラインでの参加を交えつつ、対面形式での開催となりました。

1.基調講演

ワークショップに先立って、3名の方から基調講演を頂きました。

基調講演1 社会デザインの眼で見つめ直す「健康寿命延命社会」への道 ~ワーク&ライフの変革とDGXに基づくwell-beingへ~

社会デザイン・ビジネスラボ会長
中村陽一氏

社会の改善ではなく社会の変革・変化を目指すのが社会デザインと言えます。
社会デザインの特質として、多くの領域への横断性を持ち、相互に影響しあって変化を生み出すという点が挙げられます。

まずスマートシティについて考える際には【デジタル産業主義】と【デジタル分散主義】の違いに留意する必要があります。
デジタル産業主義に捉われてしまうと、デジタルの可能性を十分に活用できなくなります。
これからの時代は持続可能性や協働、パブリックコモンズを大事にするデジタル分散主義の方向性を重視していくべきでしょう。

社会デザインで目指す幸福とは、主観的な感じ方である“happiness”ではなく、俯瞰的に捉えた“well-being”のことです。
well-beingを追求するために大切なコンテンツのひとつに、サードプレイスがあります。
サードプレイスとは家庭でも職場・学校でもない居場所です。
単に居場所があれば良いというのではなく、その場所のなかで自分が社会・他者とどのような関係性を築くのかがwell-beingの追及においては重要になります。

2001年5月にWHOがICF(国際生活機能分類)を採択しています。
ICFの目的は「“生きることの全体像”を示す“共通言語”」を示すことです。
病気の人や障害がある人だけでなく、すべての人を対象とした新しい健康観を提起しています。

私たちはICFに則って、従来提示されていた【医学モデル】【社会モデル】の2つを総合した統合モデルを前提としながら、健康寿命を延ばすための方策を考える必要があります。
近年”Five Ways to Well-Being”という説が提唱されています。
人がより良く生きることを支えるための5つの方法ということです。

1.誰かとつながり
2.積極的に活動し
3.何かしらの気づきを得て
4.学び続け
5.自らのもつものを与え貢献する

いずれも決して難しいものではなく、むしろ日常的な活動と言えることに気が付くかと思います。
大掛かりで特別な活動ではなく、日々の堅実な営みがWell-Beingにつながるということです。

ウェルネスビジネスにおいて重要なのは、利用者のモチベーションを高めることです。
アプローチの手法はさまざまですが、多くの人、地域、団体とコラボレーションしながらの活動を通して、さらに効果の高い事業を作り上げることができるはずです。
さらにユーザー・ターゲットの行動変容を促すためには、個人ごとの意識の改革を促すのではなく、環境を整備することがポイントになります。

20世紀、社会や環境などに関する活動は経済活動の範疇外と捉えられてきました。
21世紀になると、経済活動の外部に社会活動があるのではなく、共通の舞台に立つ、相互作用がある活動同士であるというように人々の意識の再構築が進んでいます。

加えて、アフターコロナ、ウィズコロナを機に、仕事を含めて人々の暮らし、考え方自体の大きな変革が始まっています。
一見日常に戻ったように見えても、人の考え方、生き方がビフォーコロナに戻ることはほとんどあり得ないと言っていいでしょう。
これからはプライベートとオフィシャル、パブリックが入り交じり、生活と仕事がより相互に乗り入れた“ライフ&ワークミックス”の社会がスタンダードとなっていくと予想されます。
動き出していく“ライフ&ワークミックス”へ向けて、どのようなソーシャルな取り組みを行っていくかを考えることが求められていきます。

基調講演2 大阪スマートシティパートナーズフォーラム

大阪府スマートシティ戦略部
山縣敦子氏

大阪スマートシティパートナーズフォーラム(以下OSPF)とは、官民共同で取り組んでいる事業です。
2020年4月に吉村大阪府知事の肝煎りでスマートシティ戦略部が設置されました。
スマートシティ戦略部が目指しているのは大阪府全体の先端技術の開発力強化と、大阪府民のQOL上昇です。
住民目線の取り組みを実現するために、民間からスマートシティ戦略部のトップを迎え入れています。

スマートシティ戦略部に求められている役割は大きく3つあります。

1.市町村と共にスマートシティを計画・実装
2.行政自体のDXを促進
3.スマートシティに関する規制改革を促進

現在OSPFには約400の企業・団体が参画しています。
OSPFは行政が主体となっている団体であるものの、参画団体から会費を頂いて運営しているという特徴があります。
発足当初はいわゆる大企業の参加が多かったのですが、現在はスタートアップ企業も増えてきています。

OSFPに加入していただくメリットは、OSPFによる企業と自治体とのスムーズな仲立ちです。
実際に、企業・団体から直接自治体にアプローチするよりも、事業により関連する部署に確実に繋がれることを体感していただいています。

OSFPでは企業に対してだけでなく自治体へのアプローチができるような取り組みを行っています。
2020年の設立の直後には【市町村課題見える化ワークショップ】を開催しました。
自治体ごとにそれぞれ異なる課題を抱えていますし、問題意識の強さや改善への熱量には差があります。
ワークショップを通して課題を可視化し、企業と共有することで問題解決につなげることが狙いでした。
このような官民一体となった活動の機会を、月2回から毎週行っています。

もともと大阪府には行政情報に特化した部署も存在しています。
しかし、一部分野を除いては、既存の部署と企業との強い繋がりは無いのが現実でした。
OSPFでは、問題解決の提案の主体となるのは行政ではなく企業ということを意識しています。
OSPFでは市町村ごとの課題の可視化を手伝いつつ、見出された課題に対しての解決案は会員企業から提案してもらい、企業同士のソリューションを組み合わせて解決まで至るようなシステムを構築したいと考えています。

現在、【スマートヘルスシティ】【高齢者にやさしいまちづくり】【子育てしやすいまちづくり】【移動がスムーズなまちづくり】【インバウンド・観光の再生】【大阪ものづくり2.0】【安全・安心なまちづくり】の7分野でプロジェクトが立ち上がっています。
プロジェクトを導入している市町村は延べ16市町です。

一例を挙げると、阪南市ではウェアラブル端末と健診データをもとにしたプラットフォームの構築により、健康サービスや医療を結び付けるスマートヘルスサービス事業を実践しています。

具体的には住民にアプリを通して健康を維持するための情報を提供し、実際の行動変容につなげることができるかという実証実験を行っています。
現在は協力いただける一部の市町村での事業となっていますが、結果を出すことで他の自治体へも取り組みが広まっていくことが期待されます。
実際に、採択自治体は年を追うごとに増えているという前向きな状況です。

ここまではスマートシティ戦略部と企業とで協力して行っている取り組みです。
大阪府としては、大阪スマートヘルスシティ構想として、単独で府民の健康に関わる情報を一元化して、管理する大阪パーソナルデータバンクの構築も目指しています。
また、これらの事業と同時に、スマートシニアライフ事業も進んでいます。
タブレットを用いて高齢者が民間、行政問わず利用できるサービスにアクセスできる仕組み作りです。
スマートシニアライフ事業は企業の協力も得ながら、間もなく先行事業が実証開始される予定です。2022年度以降には法人化を検討しています。
この事業は2025年までに大阪府内でのユーザー100万人到達を目指しています。

基調講演3 健康寿命延伸に資するまちづくりの評価

日本老年学的評価研究機構の目的は地域共生社会・健康長寿社会の実現を推進することです。
具体的な研究テーマは3つに大別できます。

1.「健康の社会的決定要因」の重要性を示す
2.「健康格差」の実態を明らかにする
3. 介護予防戦略見直しの方向性を見出す

特に、健康寿命延伸につながる介護予防政策の基礎となる科学的知見を得ることを重視しています。
1999年度に愛知県2自治体から始まった研究ですが、2010年度から全国展開して日本老年学的評価研究プロジェクトとなりました。
現在の研究フィールドは北海道から沖縄まで全国に広がり、2019年では調査送付数40万人程度、回収数が30万人代まで広がっています。

自治体と行う大規模調査から得られるデータを通して、健康寿命を延ばすためにはどのような要素が重要なのかを導き出します。

研究から得られた結果のひとつに、人とのつながりが希薄であることが寿命に大きな悪影響を与えるということがあります。
他者との交流が少ないことは、研究寿命に対して喫煙や飲酒以上の悪影響を与えることが判っています。

その他にも、地域活動や団体スポーツへ参加する人ほど将来要介護認定を受けるリスクが下がるという分析結果も出ています。

現代社会の変化に応じて、将来的にも健康寿命に関わると思われるさまざまな観点から調査を行い、追跡をしていくことで、企業や市町村、地域の方々が行った介入の効果評価をすることが可能になります。
評価の例として、数年後の個人の要支援・要介護リスクを評価する尺度があります。このリスク得点の点数と数年後の介護・医療費の額の関連を利用して、地域で行った介入が、まちの方々の要介護リスクをどれだけ下げることができるかを評価することで、自治体ごとの将来的な介護・医療費の予測にも役立てることができます。

健康寿命延伸を測るためには、短期・中期・長期的な地域に及ぼしたい変化を見据えたロジックモデルを構築することが効果的です。
調査から得られたデータとそこから導き出された理論に基づいて活動を開始することで、将来的な介護・医療費の適正化や健康寿命延伸に繋がることが期待されます。

ワークショップ

基礎講演を受けて、ワークショップに移りました。
始めにチームビルディングとしてチーム内で自己紹介を行いました。
自己紹介は単に名前や所属団体を述べてもらうだけでなく、個人の専門領域や得意領域を伝えてもらう形式にしています。
補助ツールとして自己紹介シートを用意したことで、短時間でチームメンバーの強みを理解しやすい自己紹介となりました。

チームビルディング後、チームごとに要素抽出を行います。
健康寿命延伸に関わるキーワードを付箋に書き出し、テーマを深堀・細分化する工程です。
要素抽出のコツは、出てきた大きな要素をもう一段階細かく分解していくことにあります。
大きな要素と一段階小さな要素を掛け合わせる、あるいは敢えて引き算をしてみると新しいビジネスアイデアが出てきやすくなります。

要素抽出を終えた後は、個人ごとにアイデア創出の時間を取りました。
社会デザイン・ビジネスラボ主催ワークショップが大阪で初めて開催されたということもあり、参加者が戸惑わずワークショップに取り組めるよう1つ1つの工程で運営からポイントを提示しながら進行しました。

参加者の皆さんの理解度も高く、始終和やかな雰囲気でワークショップが進みました。
対面でのイベントだったことも相まって、参加者同士の会話が非常に弾んでいるのが印象的でした。

活発なやり取りから、各チームからバラエティ豊かなビジネスアイデアが提案されました。
特に基調講演であった、人とのつながりが健康寿命延命に結びつくという研究が印象的だったチームが多かったようです。

  • スマートヘルスを活用し、高齢世代の介護予防だけでなく若年層の未病対策を行う。散歩コースのレコメンドや、AIを活用したその時の精神状態に合わせたヒーリングミュージックの提案など。
  • 趣味が社会活動、ビジネスにつながる仕組みづくり。
  • ダイエットなど健康増進について専門家から適切な指導が貰え、かつ励まし合える仲間づくりを促進するアプリ
  • 孤食を防ぐため、孤食に陥っている人同士をマッチングさせオンラインでテレビ通話をしながら食事ができるシステム構築
  • 古民家を再生し、会員制セカンドハウスにする。空き家対策と繋がり創出の両方が達成できる。管理者も会員内から選出し、コミュニティで役割を果たしてもらう。

いずれのビジネスアイデアも斬新ながら、現代社会の課題に即したものでした。
参加者同士のつながりがあれば実際にサービスをリリースできるのではと思わせるアイデアもあったようです。
このワークショップをきっかけに、健康寿命延伸社会の実現につながるビジネスが実現化されることを願っています。

まとめ

社会デザイン・ビジネスラボ会長の中村より総括をさせていただきました。

中村:このコロナ禍で、人の繋がりと健康は大きな相互作用があることを改めて実感しています。参加者の皆さんから出たビジネスアイデアも人の繋がりに着目したものが多く、皆さんの目の付け所が適切だと感じながら発表を拝聴していました。同時に、地域内のシニア層同士のつながりだけでなく、他世代間交流ができるようなコミュニティ形成まで深まると、より良い効果が見込めるのではないかと思います。
AIを含めた技術がさらに発達し、従来の発想と大きく転換しなければならないタイミングを迎えていると感じています。これまで出来なかったことが出来るようになってくる。このAIによる新しい展開と、人と人との結びつき、サードプレイスなどの地道な活動を結びつけていくことが、健康寿命延伸社会実現のカギになるのではないでしょうか。

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