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ブルーブラックマガジンより
【後編】青森における地域づくりの可能性

一般社団法人 社会デザイン・ビジネスラボの代表理事である中村 陽一氏が連載中のウェブマガジン「ブルーブラックマガジン」(運営:株式会社ブルーブラックカンパニー)より【前編】青森における地域づくりの可能性をご紹介しましたが、続いて【後編】もこちらでご紹介します。

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https://blueblackmagazine.jp/

「小さな成功」を積み重ねて自信を育てる――
地道な取り組みと周囲の応援が「地域の可能性」を広げる

地域づくりの現場に必要なのはウェルビーイングをめぐる議論

中村 山崎さんは今までのお仕事の中で、全国各地の地域活性化や地方創生の動きに関わり、また自らつくり出してこられたわけですが、青森の地域づくりについてはどうご覧になっていますか。

山崎(敬称略、以下同) 数多くの自治体から地域活性化や地方創生の依頼を受け、観光協会の方や自治体職員、旅館業などいろんな方とお会いしてきましたが、「こんなことをやれば人が集まるんじゃないか」というアイディア自体は結構あるのです。ただ多くの人を集めてお金を落としてもらうというのは、大都市圏の考え方であって地方はなかなか難しい。結局議論の末に「このエリアには何もないんですよ」と言われた時に必ず私が言うのは、「ないならないなりにやってみませんか」ということです。ぽつりとある温泉街なら、お金ではなく時間を使ってもらう。提案をすれば、その価値観に合った人が来ます。つまり、提案するにはターゲティングをしなければいけません。

 浅虫活性化プロジェクトには、とことんやってみてどう浅虫が盛り上がるかを期待したい。反面、大事なのは継続可能かということです。期待するアクティビティが無くても、「静かな所でのんびりしたい」、「風景を描きたい」、「平坦で空気の綺麗なところを歩きたい」、「座禅をしたい」など、旅の目的もいろいろある訳です。無理して何かを作らず、背伸びせずに、今あるものを演出して伝える。そこに関心を示す観光客もいるかもしれません。

 時にはむしろ何もしないこともマーケティングでは重要な手法です。旅行の目的は実に多様化していますので、旅の価値観を創造することこそ観光事業におけるゲームチェンジにつながると考えています。

中村 地元の人たちが案外見過ごしたりしているところに、実は山崎さんや私のような外から来る人間にとって、「これは素晴らしいな」とか「豊かだな」というものがたくさんありますよね。西さんはまさに青森で生まれ育って、大学でいったん東京にも出られて、両方のご経験があるわけですけれども、どうお感じですか。

西 全国共通だと思うのですが、「この街は何が特徴なんですか」と尋ねると、「うちの町には大したものはないよ」という人が青森にもすごく多いです。ところが、実際にはものすごくコンテンツが豊富なんですね。何といっても「ねぶた祭」というキラーコンテンツがありますし、三内丸山遺跡をはじめとする縄文遺跡や白神山地も世界遺産になっている。青森県内に世界遺産が二つもあるんですね。弘前の桜も全国から人が集まりますし、温泉もたくさんあるし、食べ物は美味しいし、お酒も美味しい。それといま取り組もうとしているのがアートによる地域活性化で、県内5つの美術施設による連携プロジェクト「AOMORI GOKAN」も始まっています。

 そんなふうに、実に地域資源が豊富なのですが、そういう認識が今ひとつない。もっと言えば、何もないぐらいの気持ちでいる人も少なくありません。もちろん、東京にあって青森にないものもたくさんありますけど、東京になくて青森にあるもの、より豊かなものがたくさんあります。そこに気づいていない、うまく生かしきれていないという感じはすごくしますね。

左から、西秀記氏、竹中恵理氏、中村陽一、山崎宇充氏

山崎 可能性というのはどの地域にもあるわけですよね。我々はよく「灯台下暗しですね」という言い方をしますが、住んでいるから足元が見えていないのではなく、足元は見えている。でも、足元しか見えてないんですよね。

 地方テレビにありがちなのは、東京のテレビ局の番組を多く流すので原宿や渋谷への憧れや関心を持つ訳ですが、県内の観光地がこういう状態なので県民の人たちも行こうよ、助けてあげよう、みたいな情報をもっと流してほしい。住んでいる場所より少し離れたエリアに関心を持ったら、そして行動したら、新たな活気が生まれる。奇しくもコロナ禍によって行動範囲が狭まったことで近隣の情報が流れるようになり、若い人たちも自分たちの暮らしている場所に目を向けて、何かやってみようという気を起こさせるきっかけにはなったかなと思います。

 地域活性化における観光施策において最も大切なのは、初めから県外の人を集めるなどということは考えず、小さな成功を目指す。その企画にまず県民が乗って、意見を言ってあげる。そして、このレベルだったら県外の人を呼んでもいいよねと、徐々に育てていくのがいいのではないか。

 やはり、地域の可能性というのは、小さな成功の積み重ねの中で、それを担う人たちが自信をつけていくことから広がっていくと思うんです。その自信をさらに育てていくためには、自治体や警察や交通インフラを担う人たちにも協力してもらわなくてはいけませんし、商店をはじめ地元のいろんな人たちにも納得してもらわなくてはいけない。また、県外にアピールするためにはメディアの力も重要です。

 つまり、仕掛けの大きい話は小さな成功を積み重ねた後に取り組むべきことであって、起業家を目指すとか新しいビジネスを自分でつくる場合も、いきなり大きな成功を目標としてもなかなかうまくいきません。ですから、まず小さなことから始めるというのは、地道ではあるけれども、決して遠回りではないということを強調したい。しっかりと成功までの道筋が描ければ、青森の新しい可能性はさらに膨らんでいくような気がしますね。

 ただ、いろんな地方から地域活性化の依頼をいただいて感じるのは、自治体の方たちと地域の人たちが感じている「課題感」が全然違うということが少なくないんですよね。実はそれほど大きなことをやらなくてもいいのが地方の良さで、「そんなものがなくても俺たちは幸せなんだ」という部分があるじゃないですか。その点においては、やはり今後は幸福感や価値観についての議論を重ねていくことがすごく必要だろうなと感じています。

中村 「幸せ」というのは、これからの社会デザインの重要なキーワードだと思います。「ハピネス」という主観的に感じられる幸せというよりは、お互いに共有したり、確かめ合ったりできるようなものという意味で、最近は「ウェルビーイング」という言葉をよく使います。そういうものにつながるという意味では、青森ももちろんそうなのですが、いわゆる地方、地域といわれるところこそ、食べ物であれ、文化であれ、人の繋がりであれ、外から見るとものすごく豊かなものを感じています。それらがうまくつながっていくことでウェルビーイングも高まるはずで、その際には「関係性を活かし、編み直す」という社会デザイン発想が大きな役割を果たすと確信しています。

 それを具体的に実践する際には、先ほど山崎さんがおっしゃった「小さな成功を積み重ねていく」という手法がとても重要だと思うのですが、どうしてもまだ、特にある程度以上の世代には、高度経済成長以降の日本が経済大国とか先進国と言われた時の気持ちよさみたいな感覚が残っている。でも、数字で見てみると、1人当たりの名目GDPは、日本はOECDに加盟している38か国中、2020年は28位、2021年は20位と、かなり下の方になってしまいました。やはりもう発想を変えていくべきときに来ています。

 一方で若い人たちと話していると、経済の良かった時代なんて全く経験していない世代ですから、そこで生まれ育っている人たちの発想の仕方は、山崎さんがおっしゃったように、いきなり経済的な大成功を考えるというよりは、本当に自分たちの身の回りで実のあることをやっていこうという感覚へと向かっている気がしますね。

 また、雪花雪中塾に来ている青森中央学院大の学生さんたちと話していると、非常に青森が好きで、できればもうずっと青森で暮らしていきたい、と。そんなふうに、若い世代の価値観はすでに変わってきていると実感しています。

竹中 私も同感です。その背景として、コロナ禍によりオンラインでできることが広がり、今まで東京や首都圏にわざわざ行かなければできなかったことが、青森に居ながらにしてやれるようになったのもすごく大きいと思います。

 もう一つ、青森が好きだという若い人たちが増えている理由として私が個人的に思うのは、青森で生き生きと楽しそうにお仕事をされている大人の方が増えたことも影響している気がします。雪花雪中塾に関連するワークショップでの話ですが、県外や海外に出た後、青森に戻ってきて仕事をしている方と学生が同じグループだったんですね。学生がその社会人の方に、「そんなに世界のいろんなところを見たのに、青森へ戻ってきて物足りなくないですか」と尋ねたら、その社会人の方が「いや、逆にすごく青森がもっと好きになったから、僕はここで仕事をしているので、今すごく楽しませてもらってます」と。学生はとても心を動かされた様子で、やはりロールモデルがいることで将来の選択肢が確実に広がることを実感しました。

 先ほど山崎さんから「小さな成功体験の積み重ね」というお話がありましたけれども、私もそれはすごく大事だなと思っています。特に地域活動に関わっている学生は正課外の活動として参加しているケースが圧倒的に多く、単位をもらえるわけでもありません。ですから、本当に小さなことでもいいので、自発的な取り組みが形になって積み重なっていったり、報道されてスポットライトが当たったりすることがモチベーションの維持に繋がっているなと感じています。

学生と社会人が知恵を出し合い「大学サテライトキャンパスの活性化」にチャレンジ

中村 雪花雪中塾の第2期も折り返し地点を過ぎ、この9月から後半のプログラムに入っています。浅虫温泉の次は、中心市街地の新町地区にある青森中央学院大学サテライトキャンパス「FRIENDLY WINDOW(フレンドリーウィンドウ)」の活性化という課題に取り組んでいます。9月にフィールドワークを実施し、10月にはワークショップを行って提案内容をまとめたわけですが、サテライトキャンパスが抱えていた課題や、雪花雪中塾との協働による活性化の取り組みについて、竹中さんからお話しいただけますか。

竹中 フレンドリーウィンドウは、2009年に策定された青森県基本計画「未来への挑戦」の推進事業の一環として、学生プロジェクトチームの提案から生まれたものです。青森の人や風土の魅力を発信し、留学生や外国人観光客と地域の方々が交流できる場所が欲しいという声を受け、友好的(フレンドリー)な交流の窓口(ウィンドウ)になってほしいという願いから名付けられました。

 1階はキッチンを備えた交流スペース、2階はセミナーや展示に利用できるスペースとなっていますが、地元住民は中心市街地へ行く機会が少なかったり、大学の施設ということで敷居が高く感じられたりするようで、当初のねらいが生かし切れていないのが実情です。

 10月のワークショップでは個人ワークとグループワークを組み合わせて皆さんからさまざまなアイディアをいただきましたので、それを受けて実践につなげていくプロジェクトを学生と一緒に動かしています。雪花雪中塾の塾生の方々にも引き続きご協力いただきながら、形にしていけたらと思っています。

青森市中心部の新町地区にある青森中央学院大学サテライトキャンパス「FRIENDLY WINDOW(フレンドリーウィンドウ)」
グループワークで出されたアイディアのまとめ

中村 いきなり社会実装まではいかなくても、学生さんが関わる社会実験として展開できたらいいですね。先ほどから出ているように、本当に小さくてもいいので、何か一つでも目に見える形にしていく。やはりプロセスを体験できることの意味は本当に大きいと思いますので、性急に結果を求めるというよりは、実践のプロセスの中で学びを蓄積し、問いを立てる習慣ができてくるといいですよね。そういういろんな可能性に向けて、引き続き西副会頭や山崎さんにもサポートしていただきながら、雪花雪中塾との協働により展開できればと思います。もちろん、私もお世話になってる青森中央学院大学の地域連携のセクションにもご協力いただき、学生さんたちの頑張りを他の先生方とも共有できればと思います。

西 最近すごく興味を持っているのが「シビックプライド」という言葉なんですが、単にこの街が好きだという気持ちだけではなく、地域を育むため主体的に関わっていくことがポイントですよね。参画意識を持つことがシビックプライドの醸成に繋がっていきますし、それは自分が住んでいる地域でなくても構わない。先ほどから関係人口の話が出ていますが、関係先の地域の活動に何らかの形で関わっていくことでもいいわけです。その積み重ねがプライドにつながっていくわけで、商工会議所のまちづくり活動の事業に関しても、そこに参画することを通じて誇りを感じてもらいたい。そういう視点を大事にしていきたいと思っています。

中村 シビックプライドも数年前からある種の流行のように取り上げられてきましたが、ようやく地に足のついた形で実践する時期に来ているように思います。先ほど山崎さんから「幸福感」「ウェルビーイング」の意味を掘り下げる必要があるというお話がありましたが、「プライド」という言葉も同じで、深掘りしていくことでさまざまな課題と結びつき、新たな実践へとつながっていくような気がしています。

では最後に山崎さんから、雪花雪中塾の今後の方向性についてのお考えをお聞かせいただけますでしょうか。

山崎 2年目の今年は対面での活動を増やしました。ただ次の年度では気軽に参加してもらうためにも、リモートと併用していくのがいいのかなと感じています。そうすることで、参加者の居住地に関係なく参加してもらえますし、青森にとっても関係人口との関わり合いを深めることも可能になり、リモートであれば月2回、3回と開催頻度を上げることもできます。

 また、来年4月以降(3年目)に向けての期待としては、やはり青森県の人たちにもっと興味を持ってほしいので、西副会頭にもお願いして、県内他地域の商工会議所とも連携できればと考えています。同時に、SNSやオンラインを活用し、地域を超えた仲間づくりができる環境を整えたい。テレビやラジオ、新聞といったメディアとも協力しながら、関心のある人たちがもっと学べる場としてのプラットフォームを形成していきたいと思います。

中村 塾生の中でコアなメンバーも見えてきていますから、こういう人たちに本当にいい人財になっていただくことと併せて、現代的なツールも活用して発信し、つながりを広げていく。これは確かにやりたいですよね。

 かつて「地方の時代」という言葉がありましたけれども、ここに来てようやく、規模の経済を優先させて突き進むといった旧来の価値観が転換し始めています。そんな今こそ、地域から、新しい枠組みとか価値観を、まさに社会デザイン的に打ち出していきたいですね。

 今日は雪花雪中塾での取り組みを中心に、青森における地域おこしの可能性を展望するお話を伺うことができ、大変有意義な時間でした。ありがとうございました。(2022年11月2日、青森商工会議所会議室にて収録)

前編はこちらから》

転載元

【後編】青森における地域づくりの可能性

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