コンテンツ
CONTENTS

コンテンツ詳細

電通育英会「IKUEI NEWS」掲載 
’’関心の種’’をまくことからはじめよう

民間の奨学財団・公益財団法人電通育英会が年4回発行している大学生向け情報誌『IKUEI NEWS』の2023年1月20日発行「IKUEI NEWS vol.101」(特集:次世代リーダーへのステップアップ④「未来を拓く知と実践」)へ、一般社団法人 社会デザイン・ビジネスラボの代表理事である中村陽一氏のインタビュー記事が掲載されました。

IKUEI NEWSはこちら

https://www.dentsu-ikueikai.or.jp/transmission/ikueinews/about/

Interview 編集部インタビュー

近年SDGsという言葉とともに世の中の「社会課題」への意識が高まっていますが、それより以前から社会課題の解決に目を向けていたのが「社会デザイン」という領域です。その専門家である中村陽一さんに、社会デザインの視点から、社会課題への意識を高める方法などを伺いました。

ーご専門とされている「社会デザイン」について教えてください。

21世紀に入り、環境や紛争などの前世紀から続く宿題に加え、貧困や社会的排除などが世界のあちこちで新たな形の課題として表れています。それらの解決に従来の発想と方法論では通用しないことは明らかです。従来の発想を超えて、社会の仕組みや人々の参画の仕方を変革し、具体的に課題解決を実現していくための思考と実践が「社会デザイン」です。ただし、それら無から有を生み出すということではありません。人と人、人と組織など、今ある関係性を見直し、組み合わせを変えるという思考です。社会デザインを端的に言い表すなら、「さまざまな関係性を活かし、編み直す行為」となるでしょう。

ここで使う「デザイン」という言葉は、「人間の幸せという目的のために、さまざまな関係を調整すること」を意味します。「人間の幸せ」とは自己実現が保障された幸福な状態、つまりWell -beingです。単に社会を「良くする」のではなく、学問や関係性などさまざまな領域を横断・超越して新たな性質を生み出すことで、社会を「変える」。そして、Well -beingという新たな豊かさを目指すことを目標としています。

ー昨今、社会課題に対する世間の意識が高まっている理由を教えてください。

私たちはこれまで、資本主義社会のもと経済的な豊かさを追求し、その中で表出してきた環境や人権などの問題は見て見ぬふりをしてきました。ところがバブル崩壊以降、日本経済は不調が続いています。この状況を受け、「経済的な豊かさだけを追求しても発展は望めない」という認識がビジネスの世界で広まり始めたのです。「先義後利」という言葉の通り、ビジネスの場である社会が先に良くならないと利益も生まれません。一人勝ちではなく「共創共栄」に取り組まざるを得ないという危機感が、意識の高まりにつながっているのだと思います。

私は、「社会デザイン・ビジネスラボ」という個人と企業と社会をつなぎ、社会課題解決と新規ビジネスを創出する場を立ち上げました。ここで社会課題とビジネスを結び付けたことには理由があります。サードセクター*は大事ですが、日本ではまだ単独で社会を変えるパワーを持っていません。サードセクターが持つ課題提起力などを活かせる社会にするには、まずはビジネスから変える必要があるという考えで設立に至っているのです。

*社団法人・財団法人(一般、公益)、NPO法人など、公共性・社会性を持った活動に取り組む広範な組織群

ー実際に社会課題の解決に取り組む際のポイントは何でしょうか。

多様な力を組み合わせて活かすことです。社会デザインの特質としても領域横断性や学際性などがありますが、その必要性はリーダーシップの変化とともに高まってきました。かつてはどの組織もトップダウンのリーダーシップが多かったのですが、今は多様な人の集まりをコーディネートするようなリーダーシップが求められています。社会デザインでも「ソーシャルデザイナー」という「人財」像を掲げ、社会のさまざまな場面で社会デザインの方法論や発想を発揮できる人を増やすことを目的としています。リーダーシップの在り方と同様に、立場にかかわらず、異なる人や組織をつなげる場をコーディネートできる「人財」が求められる時代なのです。

しかし、多様な人々の合意形成は非常に難しく、社会デザインの研究でもよく議題に上がります。ここで必要なのは合意形成よりも、強力・協働の社会技術です。どちらかの意見を通すのではなく、対話的な議論の場を持って協力を取り付けていく。目標に向かってWin-Winの状態をつくるために、知恵を出し学び合う社会技術、つまりコミュニケーションの技術が共創を生み出すのだと思います。

ー社会課題を自分事として実践するために必要なことは何でしょうか。

何より、失敗を恐れないチャレンジ精神を持つことです。失敗や挫折を経験し、内省することで物事への理解は深まります。机上でロジックを組み立てるのも大事ですが、現場での経験に替えられるものはありません。気になる地域の活動に参加してみる、先輩がやっている活動に混ぜてもらう。大それたことではなく、どんな動機でもいいから、小さなアクションを起こすことで先が開けていくのです。

大学生で「今は社会課題に対する想いがない」という人も全く問題ありません。一つ意識してほしいのは、心に「関心の種」をまくことです。例えば戦争に関するニュースを見て「残酷だ」と感じたり、授業を受けていて「これは面白いぞ」と感じたり、日常生活の中で心が動くことがあると思います。このような関心の種を見つけたら、一歩踏み込んで考えてみると、この先の仕事や活動を経て芽吹くことがあります。共感できることを見つけて動き、そこで出会う人や経験からたくさんの学びを得てほしいと思います。

電通育英会の奨学生に選ばれた皆さんには、社会から与えられた役割があると思います。その才能や今の恵まれた状況を、これからの社会に還元してくれることを期待しています。

プロフィール

中村 陽一(なかむら よういち)

1980年一橋大学社会学部卒業。編集者、消費社会研究センター代表、東京大学客員助教授、都留文科大学教授、立教大学21世紀社会デザイン研究科教授、社会デザイン研究所長等を経て現職。株式会社JSOLと立教大学社会デザイン研究所との連携協定をもとに、2019年12月に社会デザイン・ビジネスラボを立ち上げ、代表理事を務める。東京大学大学院情報学環特任教授。専門は、社会デザイン、ソーシャルビジネス、NPO /NGO、市民活動、コミュニティデザイン等。ニッポン放送『おしゃべりラボ〜しあわせSocial Design』パーソナリティ、演劇プロデュースなど幅広い活動も手掛ける。

転載元

https://www.dentsu-ikueikai.or.jp/common/degitalbook/vol101/#page=7

\ ページをシェア /