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【開催報告】宇宙業界とのつながりと社会課題解決

※こちらは、旧団体での開催となります。

2022年6月29日、「宇宙業界とのつながりと社会課題解決」と題したセミナーを、ハイブリッド形式で開催しました。会場は満員で20名、オンラインと併せて80名近くと沢山の方にご参加いただき、宇宙業界に関心を持っている方が多いと感じます。株式会社JSOLでも、新規事業として宇宙ビジネスへの参画をはじめたところで、このセミナーをきっかけに宇宙につながる関係性を築いていけたらと思っております。

1.講演 「宇宙産業の現状と社会課題」

SPACE COTAN株式会社は、「北海道スペースポート」という宇宙の港を企画運営することを目的に、昨年の4月に設立しました。北海道に宇宙版シリコンバレーを作ろうと取り組んでいます。

昨年(2021年)は、前澤友作さんの宇宙旅行が話題になりましたが、民間宇宙旅行が本格化し、職業宇宙飛行士よりも民間で宇宙旅行に行く人の数が上回りました。宇宙事業において、国主導から民間主導に移り変わっていく分岐点が、昨年であったと思います。

SPACE COTAN株式会社の取り組み

我々は北海道の大樹町という、東京都の23区よりも広い町で、宇宙事業に関する取り組みをしています。人口は約5000人ですが、牛は3万頭近くいる町です。

我々が取り組んでいるミッションは以下のようになります。

空港を作ると航空産業や観光業が集まるのと同様に、宇宙港を作ればその周辺に宇宙産業、例えばロケット会社や人工衛星会社などが集まってきます。それにより周辺産業やサービス業などの雇用も生まれるため、単に宇宙の取り組みにとどまらず、地方創生の取り組みとしてもこの事業を進めています。

スペースポート(宇宙港)とは?

スペースポート(宇宙港)とは、垂直発射するロケットや水平離陸するスペースプレーンなどが離着陸するための、いわば地球と宇宙をつなぐ場所です。

現存するほとんどのスペースポートが、縦型か水平型どちらかにしか対応していないのに対し、北海道スペースポートは、広大な敷地を生かして、縦型と水平型どちらにも対応することができる、まさにアジアのハブ空港ならぬ、ハブ宇宙港を目指すスペースポートになっています。

なぜ、北海道大樹町でこの取り組みをしているのか?

大樹町は、実は35年ほど前に、日本政策投資銀行がロケットの打ち上げに適した場所だと発表しています。大樹町ではロケットのみならず、気球の実験や、最近ではドローンなどの実験も行われており、まさに「航空宇宙関係の実験の聖地」なのです。

大樹町が適している理由は以下の5つです。

  1. 国内3つ目のロケット発射場としての実績
  2. 高緯度かつ、東と南が海で開かれている
  3. 広大な敷地があり拡張性が高い
  4. 圧倒的な十勝晴れ
  5. アクセスの良さと快適な周辺環境

特に、東と南に海が開けているという地理的優位性、十勝晴れという言葉があるくらいの晴天率の高さは特筆すべき事柄です。

宇宙産業のビジネスチャンス

宇宙産業は、2040年には110兆円にもなると目されている、まさにゴールドラッシュと言われる大きな産業です。世界一の億万長者のイーロン・マスク氏や、Amazonで大成功を収めたジェフ・ベゾス氏などが、宇宙にフルコミットしているような状況です。

例えば、イーロン・マスク氏の「スターリンク」やAmazon社の「プロジェクト・カイパー」など、人工衛星経由で、全地球上に通信サービスを提供しようというプロジェクトがあります。日本でも電波が繋がらないところは多いですが、全世界では30億人の人が電波の通じないところにいると言われています。そのようなところに一気に人工衛星の気流で通信を届けることができるという、大きなビジネスチャンスになっています。

今回のロシア・ウクライナ戦争では、ロシアがウクライナの通信を妨害したと言われた際に、イーロン・マスク氏の「スターリンク」が提供されて、ウクライナの通信が守られるという、平和利用にも使われました。

その他、リモートセンシングと言われる、作物の生育状況を人工衛星データで見て、取得した全世界の画像データをAIで分析しビジネスに繋げていく取り組みや、GPSなど、人工衛星のデータが収益につながるようになっています。

また、2030年くらいを目標に、ロケットによって人を大陸間輸送する、高速2点間輸送というP2Pが提唱されています。この技術を使うと、東京とニューヨーク間が40分くらいで移動できる世界が実現するかもしれません。そうなると、スペースポートが移動の拠点のハブになります。

ヨーロッパやアメリカの方々が日本やアジアに来る際に、まず40分で北海道スペースポートに来て、そこから飛行機などで移動し、トータル2時間くらいでアジアのどこにでも行けるという、移動手段になることも視野に入れています。

SDGsの観点からも、宇宙利用はあらゆる産業の合理化につながっています。
農業では、作物の生育状況を人工衛星データで見て、生育状況がいいところから収穫をしていくことや、インフラ等の自動運転など、また漁業関係では船の輸送などに、GPSやレーダー系のデータを使い各産業を合理化していくことで、環境への影響が提言できます。

国内に宇宙港を作る重要性

日本の人工衛星製造能力は高く、おそらく世界で4位5位くらいの人工衛星台数を誇っています。一方で、ロケットの打ち上げ台数は中国やアメリカに比べて少ないのが現状です。そのため、日本で作られる民間の人工衛星の90%以上が海外で打ち上げられています。

つまり、日本の投資家や日本の政府が出資した、人工衛星会社への補助事業などのお金の一定部分が、海外でのロケット打ち上げに使われてしまっているのです。この状況を改善しなければ、日本の宇宙産業が発展しないのではという課題に対して、我々は早急に対応しようと取り組んでいます。

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パネルディスカッション

モデレーター
秋本 敏樹
• 株式会社JSOL ビジネスデザインチーム 宇宙ビジネス創出リーダー
• 2022 AWS Top Engineer

パネリスト
三尾 幸司
• 一般社団法人 社会デザイン・ビジネスラボ事務局長
• 株式会社JSOL ビジネス・デザイン&マーケティング部長


大出 大輔
・SPACE COTAN株式会社COO


羽田 成宏
・株式会社シグマアイ 事業開発マネジャー
・一般社団法人SPACETIDE
・株式会社CuboRex CSO(非常勤)
・東北大学特任准教授(客員)
左から三尾氏、大出氏、羽田氏、秋本氏

テーマ1 宇宙 x 社会課題はどうつながる?

秋本:
今日は色々なフィールドで活躍している3人にお集まりいただきました。

宇宙という業界は面白く・新しく、これからどんどん伸びていく方向に活性化していますが、一般企業の方からは、「縁遠い」「近づきにくい」というような印象を持たれがちです。大出さんは一般企業にも勤めていて、現在は宇宙事業に取り組まれていますが、実体験として宇宙産業と一般産業の違いで感じているところはありますか?

大出:
やはり一般産業の方に宇宙の話をすると、最初は「遠い」とか「僕らのビジネスじゃない」と敬遠されがちです。でも、世界の基準では100キロ上空が宇宙で、東京の人が宇都宮でビジネスをしているくらいの距離感です。そう捉えるとあまり遠くはありません。

社会課題の点では、20〜30年前からインターネットが民間で使われ始めて、今ではほとんどのビジネスでインターネットを使っています。同様に、これからの時代、ビジネスの基盤になっていくのが「宇宙」だと思っています。

ビジネスにおいて、データ分析の重要性がこれから増していくと思いますが、そのデータを一番多く効率的に集積するのが、人工衛星です。どの産業もインターネットでホームページやメールを使っているように、人工衛星のデータ(画像や通信やGPSなど)をいかに使うかについてあらゆる産業が考えて、会社の戦略やサービスに組み込んでいく時代が、これからやってきます。あらゆる社会課題に繋がっていく、あまり遠いものではありません。

秋本:
インフラとしてどう活用していくかが、今後の課題になりますね。 羽田さんもSPACETIDEでの宇宙の分野と、量子コンピューティングの事業をされていますが、一般産業と宇宙産業についてどう考えていますか?

羽田:
どちらもビジネスを作るのは難しいので、その意味ではあまり変わらないと思います。 一般産業では使える場が地球ですが、フィールドやロケーションが宇宙という違いだけで、さほど変わりがないような気がしています。

何を宇宙と捉えるかが、大きな問いだと思っていて、私は元々は光関係の研究者・技術者でしたから、宇宙開発光学系に携わっていたこともあり、自分が開発に関わったものが使われている宇宙、という捉え方もしています。

一方、IKEAのデザイナーが、火星を模した火星砂漠研究基地でデザインの研究を行ったという話があります。その理由は、宇宙船内や宇宙環境はある意味辛い環境で、そこでのデザインを地球で使うと、きっとコンパクトでミニマムなデザインになるということを、身を持って体験するためだそうです。デザインをする環境として宇宙があるというのは画期的だと思っていて、捉え方次第で共通するところ、全然違うところがあり、それをいかに積み重ねていくかが、宇宙ビジネスのヒントにつながると思っています。

秋本:
確かに、IKEAは家具を作っているイメージなので、宇宙とは直接関係がないように思えますが、デザインというところで関係性が出てきます。多くの企業が、宇宙とは関係がないと思っているかもしれないけれど、探せば何か出てくるかもしれませんね。

社会課題という点で、社会デザイン・ビジネスラボの三尾さんは、宇宙と社会課題でどんな考えをお持ちですか?

三尾:
宇宙と紐づけやすい社会課題として、資源の問題があると思います。 今後、宇宙や月、火星に住むのであれば、限られた資源で生活をしなければなりません。その時にどう工夫して暮らしていくかということは、これからの地球環境の問題とリンクしているところがあり、未来志向で考えたら、今から取り組めると思います。

社会課題は人と人、もしくは人と地球の問題です。宇宙は狭い空間で資源もないため、トラブルが起きやすく、ダイレクトにぶつかると思います。そのように想定した時に、宇宙向けに技術開発をすれば、それは地球でも広がるビジネスになると思うので、両方の課題解決ができると思います。

先ほど羽田さんが話していたIKEAのデザイナーの話のように、宇宙からのリバースエンジニアリング、リバースイノベーションのようなイメージで捉えると、今から先行して宇宙に取り掛かることは、日本や世界の、社会課題解決につながるビジネスができるのではと捉えています。

秋本:
宇宙からのリバースエンジニアリングというところでは、色々アイディアが出てきそうですね。最近は、SDGsに関心を持っている企業など、社会課題解決を企業の中で考えることも増えてきていると思いますが、「宇宙」というキーワードを加えるにはどう考えたらいいか、コツなどはありますか?

大出:
まずは、専門性を活かした自分の知見を起点にしないとアイディアは生まれないと思うので、そこがベースになると思います。私は建築分野でしたので、最初は月での建築や宇宙での建築を想像しました。ただ、1発目に出てくるアイディアは、おそらく想像しやすい先の出来事になるので、そこからバックキャストするといいと思います。

私の場合だと、月での建築や人工衛星を使ってビジネスをするなどのアイディアが出てきましたが、これらは一足飛びにはできないので、何をすべきかをバックキャストした時、地球上でスペースポートを作るというアイディアが生まれました。これなら私の専門知識の建築も活きますし、今やるべき課題でもあるというところに落ち着きました。

秋本:
バックキャストは大事ですね。将来を描いて、そこへ向けてどうやっていくかということですね。 羽田さんも、先ほどデザインのお話をされていましたが、それも含めていかがですか?

羽田:
ビジネスデザインという観点では、本当にやりたい宇宙事業だけで、最初から最後までやるというのは結構厳しいと思っています。私も量子技術活用の企業ですが、全部の事業に量子技術が100%入っているかというとそうではありません。社会課題解決の達成など、達成したいゴールに向けて本当に必要であれば、適用するというのが正しいやり方だと思います。

一方で、量子技術もまだまだ未熟、宇宙についてもまだまだ解明されていない中で、それでもフルでやってみることも大事だと思います。私は量子的事業開発と呼んでいますが、ゼロイチの考え方で、宇宙を全く意識せずにやることと、どっぷり宇宙に浸ることとを行き来する中から事業が生まれるかもしれないというやり方です。

これは伝統ある企業の新事業ではやりにくいと思いますが、私のようにスタートアップ内スタートアップみたいな感じで、どんどん事業をやってみて、そこから見出すような組み入れ方もありだと思います。初期のビジネスのグランドデザインが、勝負を分ける気がしているので、経験則から、1発1中でいくと難しいと感じています。

スピード感を持ってリアルな事業をやるためには、参加する人や実際にやる人が必要なので、やりたい人と本気で結びつくのが非常に大事なのではないかと思っています。

秋本:
宇宙ってホットなワード、キラーワードみたいなところがありますし、今日のこのイベントも100人以上の方にお申し込みいただいて、非常に熱のある領域なので、これを活かして新しい事業を生み出すことを、色々な企業を巻き込んでできるといいですね。

三尾さんも社会課題系のアイディアを色々考えられていると思いますが、何かコツなどありますか?

三尾:
話にあったバックキャストはやりやすいと思います。宇宙でいうと昔のSF小説が現実になっているように、皆さんの想像力も近い未来のSFになると思うので、SF的思考で未来を考えるのはありではないかと思います。

それ以外には、循環型経済という観点が非常にいいなと思っています。物を作る時にそれを次に使える形で作るとか、宇宙産業は1社だけでは難しいので、色々な企業と一緒に地域連合のような形でアイディアを出し合っていくなど、新しい近未来をみんなで考えていけたらと思います。

先日も中小企業の方とイベントを行いましたが、1社1社がとんがった技術を持っているけれど日本企業の下請けで、相見積を取らされて儲からないという現状があります。それであれば別の軸で、自分達が価値の出る領域で新しい事業を作っていく、循環型経済のビジネスモデルが作れれば、地域の中でお金も回るのではないでしょうか。

先ほど大出さんが、日本のお金が海外に流れているという話をしましたが、同じような現象が日本の中でも起きています。その中で、循環型経済でいかに事業ができるかが1つのポイントで、それができると、そのまま宇宙でも使えるのではないかと思います。今度「近未来」と「循環型経済」というキーワードで宇宙のワークショップをやってみたいです。

秋本:
そうですね。ワークショップ形式で色々な方と考えていけたらいいですね。

テーマ2 宇宙✖️DX活用

秋本:
次はデジタルトランスフォーメーション(DX)というテーマです。 先ほどの大出さんの発表の中にも、衛星の活用の話がありましたが、宇宙の技術を使ったビジネスの変革とでも言いますか、DXの活用についてどのようなことが考えられるでしょうか?

大出:
今後、DXの中で使われる元データの中に、宇宙からのデータの割合が増えてくることが考えられるので、デジタルトランスフォーメーションなのか、スペーストランスフォーメーションなのかわからないような世界観になっていくのではと思っています。

また、宇宙事業をやっている側ではわからない色々な課題が、あらゆる産業であると思います。本日のイベントのように、宇宙の専門家とその産業での専門家が対話をする機会を増やしていくことが、今後非常に重要なポイントになると思います。

「非宇宙企業の課題を宇宙の方に持ってきて繋げる」という取り組みができる企業はたくさんあると思います。そのような取り組みがどんどん加速して、あらゆる産業が宇宙に目を向けていく。それによりDXの活用が進んでいくのではないかと思います。

秋本:
インフラとしての宇宙に、ビジネスのニーズをどう繋げていくかが大事だと、伺っていて思いました。そのあたり、羽田さんはどのようにお考えですか?

羽田:
DX企業のJSOL(株式会社JSOL)さんの前で言うのは非常に憚られるのですが、実際に仕事をさせていただくと、デジタルは全然必要なくて、マインドセットを変えるだけで、実はトランスフォーメーションができたという場合が結構あります。クオンタムテクノロジーを含んだデジタルシステムを導入する中で、マインドセットも変わり、実際に第二の創業に向かう可能性が出てくるという経験もあります。

ある意味では逆の発想になりますが、例えばテニスの世界で「錦織圭」とか「大坂なおみ」のようなスターがいると注目されるように、例えば、小学生宇宙起業家のようなスターが生まれると変わるのではないかと思います。

SPACETIDEでは、年齢等に関係なく宇宙産業にチャレンジする人を後押しする、という意味でスターの輩出につながる取り組みをしていると考えています。私は、宇宙産業プレイヤーのスター化として、DXがあってもいいと思うし、自分自身もそんなことをやっていきたいと思っています。

秋本:
宇宙DXの子供とか、Z世代の若手のスターが出てくるというのは、業界全体として非常に盛り上がりますね。

羽田:
大出家ではお子さんに、宇宙の英才教育をしているのですか?

大出:
はい、おままごとの人参をロケットに見立てて、多段式ロケットの打ち上げシーケンスを教えています。

秋本:
英才教育は大事ですよね。そういう意味では、子供向けに宇宙に興味を持ってもらうためのイベントの企画でしたら、一般企業で子供向けの商品作っている会社もあるでしょうから、そういう絡み方も面白そうですね。

羽田:
ちなみに、私のイノベーションの教科書は「こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所/作:秋本治)」ですね。結構真面目な話です。このような幼少期の記憶は、後々に残るのではないかと本気で思っています。

秋本:
そうですね。 最後に、DX企業のJSOL(株式会社JSOL)と言われた三尾さんとしてはいかがですか?

三尾:
私が言うのもなんですが、「DXってなんだろう?」と思うことはあって、結局は定義の仕方次第なのかなと感じています。先ほど、「スペーストランスフォーメーション」とか「マインドセット」とかの話がありましたが、結構そこはあるかと思います。

今までは人がやっていたことを飛び越えて、デジタル化するというのが、皆さんの考えるDXではないかと思いますが、宇宙では人ができないところや、見えていない環境が圧倒的に多いので、入口が変わってきます。それを地球に戻すと、違った形のデジタル化になっていくと思います。

今まで人がやっていたプロセスをデジタル化するのではなく、新しい、機械を中心としたやり方に人が入り込んでいくような、そういうDXが宇宙環境にはあるのではないでしょうか。

秋本:
トランスフォーメーションを考えていく上で、株式会社JSOLだけで何かをやるというよりは、色々な企業と協力して、バックキャスト思考でワクワクする未来像を描き、新しいものを生み出していくようなDXの取り組みが、今後できるといいですね。

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