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【開催報告】社会デザイン・ビジネスラボ 研究会 第3回
環境から考えるビジネスとこれからの社会

2021年4月19日、東京都千代田区の3×3 Lab Futureで、5月13日はオンラインで「 社会デザイン・ビジネスラボ 研究会 第3回【テーマ:環境】 環境から考えるビジネスとこれからの社会」を開催しました。

Day1(4月19日)

【会長挨拶】鳥の目と虫の目、二つの視点でアイデア創出を

中村: 「環境危機」というテーマから、温暖化や異常気象など、地球規模での問題を思い浮かべる かもしれません。しかしこれは、環境の中で暮らす人類、あるいは人類が作り上げてきた仕組み である「経済」の危機であるともいえます。 その解決に重要なのが、社会全体を見通して経営方針を考える「鳥の目」と、人々の暮らしに接す ることで解決の糸口を見つけ出す「虫の目」です。 社会デザイン・ビジネスラボでは、これらの二つの目を活用しつつも、どちらにも偏ることなく、企業活動と社会貢献の両立を実現させるアイデアの創出を支援していきたいと考えています。

立教大学大学院
21世紀社会デザイン研究科 教授
社会デザイン研究所 所長
社会デザイン・ビジネスラボ会長
中村 陽一 氏

【講演】ベランダから宇宙まで。人工土壌で農地改善

その後、環境に取り組む起業家の皆さまにご講演いただきました。最初に、人工土壌の開発で農地の改善に取り組むプレゼンターにご登壇いただきました。

プレゼンター: 1秒にサッカー場1面分の農地が消失しているといわれる現在、作物の生育に必要な農地が減少し、地球規模で土壌劣化が深刻な状態になりつつあります。

農地減少に拍車をかける要因として、「荒廃した農地の復活は難しい」という点が挙げられます。

農地は定期的なメンテナンスが必要であり、3年以上放棄した場合、元の状態に戻すまでに3年から5年もの期間が必要になります。さらに、塩害や化学肥料汚染などが生じた場合、作物に必要な地力を回復させるまで10年以上かかると言われています。

私たちのビジネスモデルは「高効率かつ持続可能な畑を、ベランダから宇宙基地まで幅広く作り出す」であり、それを実現させるために開発したのが、炭などの表面に微生物を付加した人工土壌である「高機能ソイル」です。

この高機能ソイルは、有機肥料を高効率に利用することができ、耐病性も高く、作物の栄養素を上げたり、味に特徴を出すことも可能です。さらに炭の活用によって、農地に炭素を固定し、環境負荷を低減させる効果も得られます。

私たちは、高機能ソイルを農家の皆さんと活用することで、持続可能な農業システムで食糧問題を解決に導く「次世代の緑の革命」を目指しています。

さらに、宇宙空間で作物を生育する「宙農」にも、高機能ソイルの技術を役立てていきたいと考えています。

【講演】森林をデザインする新時代の林業へ

続いて、林業にかかわる幅広いビジネスに取り組んでいるプレゼンターにご登壇いただきました。

プレゼンター: 林業には、大きく分けて二つの価値があります。一つは、木材や燃料、肥料などを社会に供給する「経済的価値」。もう一つは、植物の生育を促すことで突発的な流水や飛砂、獣害から街を守る「公益的価値」です。

しかし50年かけてようやく木が育っても、伐採作業には危険が伴いますし、使用する重機も高額です。

それだけの労力を払っても、得られる売り上げは、木材を詰め込んだ運送用トラック1台当たり、4万円程度しかありません。このような状況から、林業に魅力を感じなくなった山主も多くいます。

しかし、伐採をせずに放置すると、地盤が悪化し、環境破壊につながってしまいます。定期的に間伐をすることで、「森林をデザインする」必要があるのです。

この問題を解決するには、山の木だけではなく、木が使われる町、生活、社会について広く考えなくてはいけません。その一つが、「住みやすい田舎」を作ることや、木造住宅の増加を促すまちづくりです。

私たちが取り組んでいる木製家具の販売や、雇用創出を目的とした薪の生産、販売事業、飲食店経営も、住みやすい田舎の実現に役立っています。

人々の暮らしを林業で支えることで、「林業の価値=価格」を実現したい。それが私たちの目標です。

【ワークショップ】環境に関するビジネスアイデアを創造①

講演のあと7グループに分かれてワークショップを行いました。『いのべ場』のフレームワークを用いて、各グループ内でビジネスアイデアを創出、活発に意見を交わしました。

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Day2(5月13日)

Day2はオンラインで講演とワークショップを行いました。 最初の講演では、途上国への水供給を行っているプレゼンターに、ビーカーでの実験などを織り交ぜながら、世界の水問題についてご説明いただきました。

【講演】寄付に頼らず、継続的に水をきれいにする技術を途上国に

プレゼンター: 私たちがもっとも力を入れている、途上国への給水事業では、ソマリアやパキスタン、ペルーなどの治安が悪い国を中心に、約1500万人を対象として給水を行っています。そしてこれまで一度も寄付金に頼らず、ビジネスとして継続的に水供給を続けてきました。

その理由は、一度でもきれいな水を提供すると、その後、汚れた水を飲むことができなくなるためです。

万が一寄付金が途絶えたら、きれいな水の提供が困難になるでしょう。私たちは途上国に対して「飲んだらなくなる水」ではなく、「きれいな水を継続的に入手するための技術」を提供しているのです。

技術開発を行うときに心がけているのが、「分かりやすい技術を作る」ことです。

例えば、汚れた水の入ったビーカーに、納豆の粘りやカルシウムなどを混ぜた浄化剤を投入してかき混ぜると汚れ同士が吸着しあい、大きな粒になるのです。こうなれば、ハンカチなどの布でろ過するだけで、透き通った飲料水ができあがります。

このような技術を途上国の人々とシェアし、世界中の水問題を解決していきたいと考えています。

【講演】東京を枯れない油田に

プレゼンター: 日本では、揚げ物に使われる食用油が年間40万トンも排出されています。この油をそのまま廃棄した場合、深刻な海洋汚染や水質汚染を引き起こしますが、電気に変換すれば、1億キロワットもの電力を生み出すのです。そこで開発したのが、世界初となる天ぷら油リサイクル燃料である「Vegetable Diesel Fuel(以下VDF)」です。

脱炭素の志向が高まりつつある近年では、VDFなどのバイオ燃料に注目が集まっています。ガソリンのように地面を掘って得る燃料ではなく、植物を絞って手に入れるバイオ燃料のシェア率が高まれば、CO2の増加が減ります。

しかし、VDFを普及させるには油の回収ルートを確保する必要があります。私たちは飲食店や販売店などから油を回収していますが、近年では一般の家庭から油を回収するために、カフェや薬局、スーパーやコンビニに油の回収ステーションを設置しています。

2016年には、使い終わった油を加工せずに、そのまま発電に使える機械の開発に成功しました。

この発電機があれば、油がある限りエネルギーの生産が可能になります。つまり、人々が生活し、食事を作り続ける限り、枯れることのない油田が完成したといえるわけです。

油で電力を賄うこのシステムで、私は東京を油田に変えたいと考えています。

【ワークショップ】環境に関するビジネスアイデアを創造②

DAY2のワークショップでは、木材を活用する「木のリユーストレー」「間伐材を使ったスマートトイレ」、獣害を減らすための「日本の自然の健全化計画」などの案が発表されました。

もっとも高く評価されたのは、相続した山林などを管理するための「山林の株式会社化 プラットフォームづくり」でした。

【総評】本当の意味での参加型社会に向けて

最後に中村会長が、2日にわたる研究会について総評を語りました。

中村: 今回のワークショップでは、単なる環境保護というテーマだけでなく、「いかにお金を循環させるか」という点がうまく盛り込まれていると感じました。

既存のビジネスのフレームでは実現できなかったビジョンに対して、一人ひとりがアイデアを出し、積み重ねていくことで、イノベーションを起こそうという気持ちを共有でき、非常にうれしく思っています。

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